「血縁がないのに養育費を払い続けるのはおかしい」。この感覚には、無理からぬところがあります。実際、この点を疑問に思って検索する方は少なくありません。
この記事では、その疑問に対して法律がどう答えているのか、そして例外的に支払いが認められなかった事例があることを整理します。感情としての納得と、制度の説明は別ですが、まず制度を正確に知ることが判断の出発点になります。
養育費の支払義務は、血縁の有無ではなく、法律上の親子関係があるかどうかで決まります。嫡出否認が認められれば親子関係は遡って否定され、義務も原則としてなくなります。しかし、期間が過ぎていれば親子関係は残り、義務も残ります。ただし、事案によっては、請求が権利の濫用に当たるとして認められなかった例もあります。勝手に支払いを止めることは避けてください。
なぜ血縁だけで決まらないのか
まず、制度の考え方から確認します。
扶養義務の根拠
民法上の扶養の義務は、法律上の親子関係を基礎として生じます。血縁があるかどうかそのものではなく、法律上どう位置づけられているかが基準になります。
子の生活を守るという目的
この仕組みには理由があります。子の生活が、大人の間の事情によって突然失われないようにするためです。親子関係を血縁の証明ごとに争えるようにすると、子の立場は極めて不安定になります。
だから手続きが用意されている
その代わりに、期間内であれば親子関係を否定する手続きが用意されています。制度は「争えない」のではなく、「期間内に争う」という設計になっています。
納得できないという感情について
この説明を聞いても、感情として納得しにくいのは自然なことです。その感情を否定する必要はありません。ただし、感情のまま支払いを止めると、法的に不利な立場に置かれます。
否認が認められた場合
手続きが成功した場合の効果です。
親子関係は遡って否定される
嫡出否認が認められると、その父子関係は、はじめからなかったものとして扱われます。戸籍も訂正されます。
今後の支払義務はなくなる
法律上の親子関係がなくなれば、それを根拠とする扶養の義務も原則としてなくなります。
過去に支払った分はどうなるか
ここは判断が分かれる領域です。すでに支払った養育費相当額の返還を求められるかどうかについては、慎重な判断がされる傾向にあります。当然に戻ると考えないでください。
生物学上の父の責任
生物学上の父が認知をすれば、その父との間に法律上の親子関係が生じ、扶養の義務も発生します。ただし、相手の所在が不明であったり、資力がなかったりすると、実際の回収は難しくなります。
期間が過ぎている場合
現実には、この状況のほうが多くあります。
親子関係は残る
最高裁は、科学的に血縁がないことが明らかであっても、嫡出推定が及ぶ以上、期間経過後は親子関係を争えないと判断しています。この場合、法律上の親子関係は残ります。
したがって義務も残る
親子関係が残る以上、扶養の義務も残るのが原則です。DNA鑑定の結果を示しても、それだけで支払いを免れることにはなりません。
それでも例外はある
ただし、事案によっては別の判断がされることがあります。妻が事実を告げず、その結果として夫が親子関係を否定する法的手段を失ったという経緯があり、かつ夫がすでに相当の負担をしてきたといった事情のもとで、養育費の請求が権利の濫用に当たるとして認められなかった例があります。
一般化はできない
この判断は、個別の事情を総合したうえでのものです。「同じ状況なら必ず認められない」という一般的なルールではありません。自分の事案でどう評価されるかは、弁護士に確認してください。
納得できない気持ちがあっても、取り決めを一方的に破って支払いを止めることは避けてください。調停や審判、公正証書で取り決めた養育費が支払われない場合、給与などの差押えという手続きを取られる可能性があります。また、不払いという事実自体が、その後の交渉や手続きで不利に働きます。変更を求めたいなら、正規の手続きを取ってください。まず弁護士に相談することが、結果として最も早い方法です。
支払いの変更を求める方法
正規の手段があります。
まず親子関係の手続きを確認する
否認できる期間が残っているなら、そこが最優先です。親子関係が否定されれば、養育費の問題は根本から変わります。
養育費の減額・免除の調停
事情の変更があった場合、家庭裁判所に養育費の変更を求める調停を申し立てることができます。収入の減少など、事情が変わったことが前提になります。
権利濫用の主張
先に述べたような事情がある場合、支払いを求める請求が権利の濫用に当たると主張することが考えられます。ただし、これは主張して認められるかどうかの問題であり、確実なものではありません。
合意による変更
相手との話し合いで合意できれば、それが最も負担の小さい方法です。合意した内容は必ず書面にしてください。
受け取る側の立場から
この記事を、受け取る側として読んでいる方もいると思います。
請求が認められないことがある
上記のような事情がある場合、養育費の請求が認められない可能性があることは、知っておく必要があります。「法律上の親子関係があるから当然に支払われる」と考えていると、想定が外れます。
生活の見通しを別に立てる
相手からの支払いを前提にした生活設計は、危険が大きいと言えます。ひとり親家庭を対象とした支援制度を確認してください。児童扶養手当をはじめ、複数の制度があります。
生物学上の父への請求
認知を求める手続きを取れば、その父に扶養の義務が生じます。ただし、所在の確認や、実際に支払われるかどうかという問題は残ります。
早めに相談する
状況が動く前に、法テラスや市区町村の窓口で相談してください。使える制度を知らないまま困窮する方が、実際に多くいます。
子どもの立場を忘れない
この問題で最も影響を受けるのは、子どもです。
子どもに責任はない
養育費が争われている理由も、その経緯も、子どもが選んだことではありません。大人の間の問題を、子どもへの態度に反映させないでください。
生活の急変を避ける
支払いが突然止まると、住まいや学校を変えざるを得なくなることがあります。手続きを取る場合でも、子どもの生活が急変しないような配慮が必要です。
子どもの前で金銭の話をしない
「お前のせいで」という言葉は、子どもに長く残ります。金銭のやりとりや争いは、子どもの見えないところで行ってください。
相談できる場所を知らせておく
子どもが自分で相談できる窓口があります。法務省の子どもの人権110番など、無料で利用できるものがあります。
金額はどう決まっているのか
そもそも養育費の額がどう決まるのかを知っておくと、変更を求める場面でも見通しが立ちます。
算定表という目安
家庭裁判所の実務では、双方の収入と子の人数・年齢をもとにした算定の目安が用いられています。血縁の有無は、この算定の要素には入っていません。あくまで、法律上の親子関係があることを前提に、双方の収入から算出されます。
収入が変われば見直せる
取り決めのあとで収入が大きく減った、あるいは扶養する家族が増えたといった事情の変更があれば、養育費の変更を求める調停を申し立てることができます。これは、血縁の問題とは別の筋道です。
取り決めの形式で強さが違う
口頭の約束、私的な書面、公正証書、調停調書。この順に、支払いが滞ったときの強制力が強くなります。公正証書や調停調書があれば、差押えの手続きに直接進むことができます。自分の取り決めがどの形式かを確認してください。
取り決めがない場合
そもそも取り決めをしていない場合、相手から請求されて初めて問題になります。その段階で、親子関係と期間の確認を行う必要があります。請求されたからといって、その場で金額に合意しないでください。
話し合いで進めるときの注意
裁判の手続きに進む前に、当事者間で話し合う場面があります。
感情の応酬にしない
この話題は、双方の感情が最も激しくなる部分です。金額の話をする場に、経緯の非難を持ち込むと、まとまるものもまとまりません。難しければ、弁護士を間に入れてください。
口頭で決めない
合意できた内容は、必ず書面にしてください。「そう言っていたはずだ」という争いは、この分野で頻繁に起こります。公正証書にしておけば、後の手続きが確実になります。
他の取り決めと分けて整理する
慰謝料、財産分与、養育費。これらをまとめて「解決金」として合意すると、後でどれがどの分だったのか分からなくなります。税や履行の場面で問題になることがあるため、内訳を明確にしてください。
期限を決めて進める
話し合いが長引くあいだにも、嫡出否認の期間は進みます。「いつまでに結論が出なければ手続きに移る」という線を、先に引いておいてください。
よくある質問
その感覚は理解できます。制度がそうなっている理由は、子の生活を、大人の間の事情によって突然失わせないためです。血縁の証明ごとに親子関係を争えるようにすると、子の立場は極めて不安定になります。その代わりに、期間内であれば親子関係を否定する手続きが用意されています。つまり制度は「争えない」のではなく「期間内に争う」という設計です。そのうえで、事案によっては請求が権利の濫用に当たるとして認められなかった例もあります。妻が事実を告げず、夫が否定する手段を失ったという経緯があり、夫がすでに相当の負担をしてきたといった事情が考慮されたものです。自分の事案で主張できるかは、弁護士に確認してください。
それだけでは止められません。最高裁は、科学的に血縁がないことが明らかであっても、嫡出推定が及ぶ場合には期間経過後に親子関係を争えないと判断しています。法律上の親子関係が残っている限り、扶養の義務も残るのが原則です。鑑定の結果は、期間内に嫡出否認の手続きを取る場合には有力な証拠になります。しかし、期間が過ぎてから鑑定を受けても、法律上の効果は生じません。順序としては、鑑定より先に「自分の場合、期間が残っているか」を確認するほうが合理的です。また、鑑定結果を理由に一方的に支払いを止めると、差押えなどの手続きを取られる可能性があります。
当然に戻るものではありません。すでに支払った養育費相当額の返還を不当利得として求める形については、慎重な判断がされる傾向にあります。支払いの当時、法律上の親子関係が存在していたのであれば、支払いに根拠があったことになるためです。一方で、慰謝料を算定する際の事情として、養育に要した負担が考慮されることはあります。つまり、「返還」という形ではなく「賠償」の枠組みで一部が反映されることがある、という理解のほうが実態に近いと言えます。自分の事案でどう構成できるかは、時系列を整理したうえで弁護士に相談してください。期待を先に固めると、結果とのずれが大きくなります。
調停や審判で決まった養育費、あるいは公正証書で取り決めた養育費が支払われない場合、給与や預金の差押えという手続きを取られる可能性があります。勤務先に手続きの通知が届くこともあり、職場に事情が知られる結果になりかねません。また、不払いという事実自体が、その後の交渉や裁判の場で不利に働きます。納得できないという気持ちがあっても、一方的に止めることは避けてください。取るべき手段は、親子関係の手続きが可能かを確認すること、事情の変更があるなら養育費の変更を求める調停を申し立てること、そして権利濫用を主張できる事案かを弁護士に確認することです。
まとめ|血縁ではなく、法律上の親子関係
養育費の支払義務は、血縁の有無ではなく、法律上の親子関係があるかどうかで決まります。否認が認められれば親子関係は遡って否定され、義務も原則としてなくなります。期間が過ぎていれば、親子関係も義務も残ります。
ただし、例外がないわけではありません。事実を告げられなかったことで否定する手段を失い、すでに相当の負担をしてきたといった事情のもとで、請求が権利の濫用に当たるとされた例があります。一般化はできませんが、主張の余地がある事案はあります。
そして、最も避けたいのは一方的に支払いを止めることです。差押えの対象になり、その後の交渉でも不利になります。まず親子関係と期間を確認し、そのうえで正規の手続きを検討してください。何より、子どもの生活が急変しないような配慮を忘れないでください。