事実が判明したとき、多くの方が最初に考えるのが慰謝料の問題です。「いくら請求できるのか」「そもそも認められるのか」。
この記事では、誰が誰に請求できるのか、金額はどう決まるのか、そして請求が認められても回収できるとは限らないことを整理します。期待と現実がずれやすい分野なので、前提から確認してください。
不貞行為は民法上の不法行為に当たりうるため、慰謝料を請求できる場合があります。相手は配偶者と、その相手方の男性の双方になりえます。ただし、金額に一律の相場はなく、事情によって大きく変わります。そして請求権には時効があり、損害と加害者を知った時から3年が目安です。認められても、相手に資力がなければ回収はできません。
法的な根拠
まず、何を根拠に請求するのかを確認します。
不法行為という枠組み
民法は、故意または過失によって他人の権利や法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負うと定めています。慰謝料の請求は、この枠組みで行われます。
「托卵」という罪名はない
刑法上、この状況を直接処罰する規定はありません。扱われるのは、民事上の損害賠償の問題です。「訴える」という言葉が使われますが、内容は民事の請求です。
不貞行為が中心になる
実際の請求では、婚姻関係にある者としての貞操義務に反する行為があったこと、それによって精神的な苦痛を受けたことが主張されます。加えて、事実を告げなかったことによる期間の長さが、評価に影響することがあります。
離婚とは別の手続き
慰謝料の請求は、離婚の手続きとは別に行うこともできますし、離婚の話し合いのなかで一緒に取り決めることもできます。どの形が適しているかは、状況によります。
誰に請求できるか
請求の相手は、一人とは限りません。
配偶者に対して
不貞行為をした配偶者に対して請求できます。ただし、離婚に伴う財産分与や養育費の取り決めと、まとめて話し合われることが多くあります。
相手方の男性に対して
不貞行為の相手方に対しても、請求できる場合があります。ただし、相手方が婚姻の事実を知らなかった場合など、責任が否定される場面もあります。
両方に請求する場合
二人に請求できるとしても、受け取れる総額が二倍になるわけではありません。同一の損害について、それぞれが責任を負うという関係になります。
相手方が特定できない場合
相手が誰か分からない、連絡先が分からないという場合、請求は難しくなります。調査の方法と費用については、弁護士に相談してください。
金額はどう決まるか
ここが最も関心の高い部分ですが、答えは単純ではありません。
一律の相場はない
「◯◯万円が相場」という情報を見かけますが、金額は個別の事情によって大きく変わります。示された数字は、あくまで過去の事例の一部にすぎません。
考慮されやすい事情
婚姻期間の長さ、事実を知らずに養育してきた期間、事実を告げなかった経緯、婚姻関係が破綻したかどうか、子の有無と年齢。これらが総合的に判断されます。
通常の不貞より重く評価されうる
長期間にわたって事実を知らないまま子を養育してきた事案では、通常の不貞行為の事案より精神的苦痛が大きいと評価されることがあります。ただし、これも事案ごとの判断です。
減額される事情もある
すでに婚姻関係が破綻していた、請求する側にも事情があったといった場合、金額が抑えられることがあります。自分に不利な事情も、あらかじめ弁護士に伝えてください。
判決や和解で金額が決まっても、相手に収入や財産がなければ、実際には支払いを受けられません。強制執行という手続きはありますが、差し押さえる対象がなければ機能しません。手続きに費用と時間をかけた結果、回収できないという事態は現実に起こります。着手する前に、相手の資力について弁護士と見通しを共有してください。
立証という壁
感情ではなく、証拠が問われます。
何を証明する必要があるか
不貞行為があったこと、それによって精神的苦痛を受けたこと。そして、請求する相手がそれに関与したこと。これらを、証拠によって示す必要があります。
血縁がないことの証明
DNA鑑定の結果は、有力な証拠になりえます。ただし、私的に行った鑑定をそのまま使えるかどうかは、手続きのなかで判断されます。取得の経緯も問われます。
違法な方法で集めた証拠
相手の同意なく私生活に立ち入って得た情報は、それ自体が別の問題を生むことがあります。集め方については、事前に弁護士に確認してください。
記録を残しておく
やりとりの内容、日付が分かるもの。感情的な対応をする前に、事実を確認できる状態を保ってください。
時効の問題
請求には期限があります。
3年と20年
不法行為による損害賠償の請求権は、被害者が損害および加害者を知った時から3年で時効にかかります。また、不法行為の時から20年という期間も定められています。
起算点が争いになる
「知った時」がいつかは、事案によって判断が分かれます。疑いを持った時なのか、確証を得た時なのか。ここが争点になることがあります。
嫡出否認の期間とは別
混同しやすい点です。親子関係を否認するための期間と、慰謝料を請求するための期間は、別の制度です。片方が過ぎていても、もう片方が残っていることがあります。
時効を止める方法がある
内容証明郵便による請求や、訴えの提起によって、時効の完成を延ばしたり更新したりできる場合があります。期限が近い場合は、すぐに弁護士に相談してください。
請求の進め方
実際の手順です。
まず交渉から
いきなり訴訟になるわけではありません。弁護士を通じた交渉や、内容証明郵便による請求から始まるのが一般的です。ここで合意できれば、費用も時間も抑えられます。
調停という選択肢
離婚と併せて話し合う場合、家庭裁判所の調停で扱われることがあります。第三者が間に入ることで、話が進みやすくなる場合があります。
訴訟になった場合
合意できなければ、訴訟で判断を求めることになります。時間と費用がかかり、結果も確実ではありません。この段階に進むかどうかは、見通しを聞いたうえで判断してください。
費用の見通しを先に聞く
弁護士に依頼する場合、着手金と報酬が必要です。回収できる見込み額と、かかる費用を比べてから判断してください。法テラスには、費用を立て替える制度があります。
請求された側の場合
逆の立場で読んでいる方もいると思います。
すぐに支払いに応じない
請求を受けても、その場で金額に合意する必要はありません。まず弁護士に相談してください。請求されている金額が妥当か、時効が完成していないかを確認する必要があります。
時効を主張できる場合がある
相手が事実を知ってから3年が経過している場合、時効を主張できることがあります。ただし、これは自分から主張しなければ考慮されません。
支払えない場合
資力がない場合、分割での支払いを交渉することがあります。無理な合意をすると、結局履行できず、状況が悪化します。
生活を守る手段を確保する
子どもを養育している場合、生活の基盤を確保することが優先されます。ひとり親家庭を対象とした制度があります。
よくある誤解を正す
この分野では、期待と制度が食い違いやすい点がいくつかあります。
「刑事事件にできる」という誤解
この状況を直接処罰する刑法の規定はありません。警察に被害届を出して刑事事件として扱われる、という筋道にはならないのが原則です。扱われるのは民事上の損害賠償の問題であり、自分で手続きを進める必要があります。
「請求すれば必ず取れる」という誤解
請求は、認められてはじめて意味を持ちます。立証できるかどうか、時効が完成していないかどうかという関門があります。そして、認められても相手に資力がなければ回収できません。
「高額なほど正義が実現する」という誤解
金額は、受けた苦痛に対する賠償として算定されるものです。制裁として金額が積み増される仕組みにはなっていません。この点を理解しておかないと、判断された金額に納得できず、負担だけが長引きます。
「相手の職場や家族に伝えれば有利になる」という誤解
逆です。関係のない第三者に事実を広める行為は、名誉毀損などの責任を問われる可能性があります。自分の立場を悪くするだけでなく、子どもにも影響します。伝える範囲は、弁護士と相談して決めてください。
合意する場合に決めておくこと
交渉で解決する場合、決めておくべき事項があります。
金額と支払い方法
総額だけでなく、一括か分割か、分割ならいつまでにいくらかを明確にします。口頭の約束は、後に争いのもとになります。
書面に残す
合意した内容は、必ず書面にしてください。公正証書にしておくと、支払いが滞った場合に強制執行の手続きを取りやすくなります。この差は、実際に支払われなくなったときに大きく効きます。
清算条項の扱い
「これ以上の請求はしない」という条項を入れるかどうかは、慎重に判断してください。後から別の請求をしたくなっても、できなくなることがあります。逆に、支払う側にとっては、蒸し返しを防ぐ意味があります。
他の取り決めとの関係
離婚、親権、養育費、財産分与。これらと一緒に取り決める場合、どれがどの対価なのかを明確にしておいてください。曖昧なまま合意すると、後の解釈で争いになります。
よくある質問
一律の相場を示すことはできません。金額は、婚姻期間、事実を知らずに養育した期間、経緯、婚姻関係が破綻したかどうか、子の有無と年齢など、複数の事情を総合して判断されるためです。ネット上には具体的な金額が並んでいることがありますが、それらは過去の個別事例の一部であり、自分の事案に当てはまるとは限りません。また、長期間にわたって事実を知らないまま養育してきた事案では、通常の不貞行為より精神的苦痛が大きいと評価されることがあります。一方で、すでに婚姻関係が破綻していたなどの事情があれば、金額は抑えられます。見通しは、事情を伝えたうえで弁護士に聞いてください。
不貞行為の相手方に対しても、請求できる場合があります。ただし、相手方が婚姻の事実を知らず、知らないことに過失もなかったといえる場合には、責任が否定されることがあります。また、二人に請求できるとしても、受け取れる総額が二倍になるわけではありません。同一の損害について、それぞれが責任を負うという関係になります。実務上の難点は、相手方を特定できるかどうかです。氏名や連絡先が分からない場合、調査が必要になり、費用がかかります。そこまでの費用をかける価値があるかどうかも含めて、弁護士と見通しを共有してください。
過去に負担した養育費相当額の返還を求められるかどうかは、事案によって判断が分かれる領域です。当然に戻るというものではありません。慰謝料の算定において、養育に要した費用の負担が事情として考慮されることはあります。一方、返還そのものを不当利得として請求する形については、慎重な判断がされる傾向があります。また、法律上の親子関係が否認されずに残っている場合は、そもそも支払いに根拠があったことになります。自分の事案でどういう主張が可能かは、時系列を整理したうえで弁護士に相談してください。期待だけを先に持つと、結果とのずれが大きくなります。
まず法テラスに連絡してください。収入と資産が一定の基準以下であれば、無料の法律相談を受けられる制度があり、弁護士費用を立て替える制度もあります。立て替えを受けた場合は、分割で返済する形になります。制度の要件は変わることがあるため、最新の内容は法テラスに直接確認してください。また、費用の判断で重要なのは、回収できる見込みです。相手に資力がなければ、勝訴しても支払いを受けられません。着手する前に、「いくらかかって、いくら回収できる見込みか」を弁護士と共有してください。この確認をせずに進めると、費用だけが残ることがあります。
まとめ|金額より先に、時効と資力
不貞行為は不法行為に当たりうるため、配偶者とその相手方の双方に慰謝料を請求できる場合があります。長期間にわたって事実を知らないまま養育してきた事案では、通常より重く評価されることもあります。
ただし、金額に一律の相場はありません。そして、認められることと回収できることは別です。相手に資力がなければ、判決を得ても支払いは受けられません。着手する前に、この見通しを確認してください。
最優先で確認すべきは時効です。損害と加害者を知った時から3年が目安であり、これは嫡出否認の期間とはまったく別の制度です。片方が過ぎていても、もう片方が残っていることがあります。期限が近いと感じたら、その日のうちに弁護士か法テラスに連絡してください。