「この子は夫の子ではないかもしれない」。そう思い始めてから、眠れない夜が続いている方もいると思います。あるいは逆に、「妻の子は自分の子ではないかもしれない」という不安を抱えている方もいるでしょう。
この記事は、どちらの立場の方にも向けて書いています。確信がないまま検索を続けても、不安は解消しません。やるべきことには順序があり、その順序を誤ると、選べたはずの選択肢を失います。
最初にやるのは、鑑定でも問い詰めることでもありません。①事実を時系列で書き出す ②期間の制限を確認する ③専門家に相談する、この順です。とくに②が重要で、嫡出否認には出訴期間があり、これを過ぎると科学的に血縁がないと分かっても法律上の親子関係を争えなくなります。迷っている時間そのものが、選択肢を減らします。
まず、事実を書き出す
頭のなかで考え続けるのをやめて、紙に書き出してください。
書き出すのは5つの日付
婚姻した日、子が生まれた日、不安を持つに至った出来事の時期、別居や離婚があればその日、そして「事実を知った」と言える日。この5つが、法律上の判断のほぼすべてを左右します。
なぜ日付が重要なのか
嫡出推定が及ぶかどうかも、否認の期間が残っているかどうかも、慰謝料の時効も、すべて日付で決まります。感情や経緯より先に、日付が問われます。
正確でなくてもよい
思い出せる範囲で構いません。おおよその時期でも、相談の出発点にはなります。戸籍謄本を取得すれば、婚姻日と出生日は確認できます。
書くこと自体に効果がある
頭のなかで巡っているものを外に出すと、それだけで少し整理されます。何が分かっていて、何が分からないのかが見えます。
期間の制限を知る
この話題で最も見落とされ、最も取り返しがつかない部分です。
嫡出否認には出訴期間がある
婚姻中に生まれた子は、法律上、夫の子と推定されます。この推定を覆すには家庭裁判所での手続きが必要で、そこには期間の制限があります。
期間を過ぎると争えなくなる
最高裁は、科学的に血縁がないことが明らかであっても、期間を過ぎた後は親子関係を争えないと判断しています。DNA鑑定の結果があっても、これは変わりません。
制度は改正されている
嫡出推定と嫡出否認の制度は、近年に改正されました。否認できる人の範囲が広がり、期間も伸びています。古い情報を前提にしないでください。法務省の説明で確認できます。
だから、相談は早いほうがよい
結論を出す必要はありません。「自分の場合、期間はいつまでか」を確認するだけでも、相談する価値があります。
どこに相談するか
ひとりで判断しないための窓口を挙げます。
法テラス
国が設立した法的トラブルの総合案内所です。収入等の条件を満たせば、無料の法律相談を受けられる場合があります。まずここに連絡するのが、費用の面でも確実です。
弁護士
家族の問題を扱っている弁護士に相談してください。初回相談を無料または低額で行っている事務所もあります。相談したからといって、依頼する義務はありません。
家庭裁判所
手続きそのものについては、家庭裁判所の窓口でも案内を受けられます。ただし、法律相談はできません。手続きの方法を聞く場所と考えてください。
守秘義務のある場所を選ぶ
友人や職場の同僚、匿名の掲示板に詳細を書くことは避けてください。内容が広がると、子どもや家族が特定される危険があります。
先にやらないほうがよいこと
順序を誤ると不利になる行動があります。
本人に問い詰める
感情的なやりとりになると、その後の話し合いが固定されます。事実の整理と期間の確認を先に済ませてから、どう伝えるかを考えてください。相手が家を出る、証拠が失われるといった事態も起こりえます。
私的な鑑定を先に申し込む
鑑定の結果が出ても、それをどう使えるかは手続き次第です。期間が過ぎていれば、結果を知っても法律上できることはほとんど残りません。順序としては、期間の確認が先です。
周囲に広く相談する
助言の質はばらばらで、法的に誤っているものも多くあります。そして一度広まった話は、取り消せません。
何もせずに待つ
これも危険です。期間は、悩んでいるあいだにも進みます。結論を出せなくても、相談だけは早めにしてください。
この問題を、子どもが見聞きする場所で話し合わないでください。子どもには、生まれてくる経緯を選ぶ余地がありません。大人の間の争いを子どもが自分の責任として受け取ると、その影響は長く残ります。子どもへの伝え方は、事実関係が整理されたあとに、専門家の助言を得ながら考えるべきことです。
気持ちの整理について
手続きの話と並行して、精神的な負担への対処も必要です。
眠れない・食べられないとき
この状態が2週間以上続いているなら、心療内科や精神科への相談を検討してください。判断力が落ちた状態で重い決断をするのは、避けたほうがよいことです。
検索をやめる時間を決める
夜に調べ続けると、不安をあおる情報にも当たります。「21時以降は調べない」といった線を引いてください。
結論を急がない
期間の制限がある一方で、その期間内であれば、考える時間はあります。「今日中に決めなければ」という状況は、ほとんどありません。
ひとりで抱えない
この問題は、性質上、誰にも話しにくいものです。だからこそ、守秘義務のある専門家に話す意味があります。
妻の立場で不安がある場合
立場によって、考えるべきことは変わります。
黙って様子を見るという選択について
時間が経つほど、事態は複雑になります。期間が過ぎたあとに事実が判明した場合、法律上の親子関係は残ったまま、信頼だけが失われるという状態になりえます。これは誰にとっても望ましくない結末です。
相談してから決める
伝えるかどうか、伝えるとしたらいつどう伝えるか。これは自分ひとりで決めるべきことではありません。弁護士に相談すれば、法的な帰結を踏まえた助言を得られます。
子どもの生活を守る
どの選択をするにせよ、子どもの生活が急に変わらないようにすることは考えておいてください。養育費、住まい、保育や学校。これらの見通しを立てておく必要があります。
夫の立場で不安がある場合
こちらの立場でも、順序は同じです。
感情より先に期間を確認する
怒りや衝撃が大きい状況ですが、期間の確認が最優先です。ここを逃すと、その後にできることが大きく変わります。
証拠を残す
やりとりの記録、日付が分かるもの。感情的な対応をする前に、事実を確認できる状態を保ってください。ただし、違法な手段で情報を得ることは避けてください。
子どもへの態度を切り離す
配偶者への感情と、子どもへの接し方は別のこととして扱う必要があります。子どもに責任はありません。この区別が難しいと感じるなら、そのこと自体を専門家に相談してください。
離婚を急いで決めない
離婚と親子関係の否認は、別の手続きです。順序によって結果が変わることがあるため、先に相談してください。
相談の前にそろえておくもの
準備しておくと、限られた相談時間を有効に使えます。
戸籍謄本
婚姻日と子の出生日が正確に確認できます。期間の判断はこの2つの日付から始まるため、最も重要な資料です。本籍地の市区町村で取得でき、郵送やコンビニ交付に対応している自治体もあります。
時系列のメモ
先に書き出した日付を、1枚の紙にまとめておいてください。口頭で説明するより、見せたほうが正確に伝わります。分からない部分は「不明」と書いておけば足ります。
聞きたいことを3つに絞る
相談時間は限られています。「自分の場合、期間はいつまでか」「いま取れる手続きは何か」「その費用はどれくらいか」。まずこの3つを押さえれば、次に何をするかが決まります。
記録を取る許可をもらう
説明された内容は、その場でメモしてください。あとで思い出そうとすると、期間や条件を取り違えます。メモを取ってよいか、最初に一言断れば問題ありません。
結果によって何が変わるか
相談すると、いくつかの場合分けを示されます。あらかじめ知っておくと、話が早く進みます。
期間が残っている場合
家庭裁判所での手続きを取るかどうかを選べます。取るという選択も、取らないという選択も、どちらもありえます。取らなければ、法律上の親子関係はそのまま続きます。
期間が過ぎている場合
法律上の親子関係を争うことは、原則としてできなくなります。ただし、慰謝料の請求は別の期間で判断されるため、そちらが残っていることがあります。「何もできない」と決めつけず、確認してください。
嫡出推定が及ばない場合
婚姻の時期と出生の時期によっては、そもそも推定が及ばないことがあります。その場合は、別の手続きで争うことになります。どちらに当たるかは、日付で決まります。
どの場合でも、子の扶養は続く
法律上の親子関係がある限り、扶養の義務は残ります。感情とは切り離して、この点は先に理解しておいてください。
よくある質問
構いません。むしろ、確信がない段階で相談するほうが適切です。相談は、事実を確定させるためではなく、選択肢と期間を知るために行うものだからです。「もし血縁がなかった場合、自分の状況では何がいつまでできるのか」を確認しておけば、その後の判断が落ち着いてできます。逆に、確信が持てるまで待っていると、そのあいだに期間が過ぎることがあります。法テラスでは、条件を満たせば無料の法律相談を受けられる場合があります。弁護士に相談したからといって、手続きを始める義務はありません。聞くだけで終わっても、まったく問題ありません。
血縁の有無については、高い精度で判定できます。ただし、それが分かったあとに何ができるかは、鑑定とは別の問題です。最高裁は、科学的に血縁がないことが明らかであっても、嫡出否認の期間を過ぎた後は親子関係を争えないと判断しています。つまり、期間が過ぎていれば、結果を知っても法律上の親子関係は変わりません。事実だけが残ります。そのため、順序としては「期間がいつまでか」を先に確認するほうが合理的です。また、私的な鑑定と裁判の手続きのなかで行われる鑑定では位置づけが異なります。受ける前に、弁護士に相談してください。
この点については、慎重に考える必要があります。方法によっては、それ自体が別の問題を生むことがあります。たとえば、他人の同意なく検体を採取して鑑定を行うことについては、個人情報や人格権の観点から議論があります。また、そうして得た結果を裁判の手続きで使えるかどうかも、別に判断されます。何より、隠れて調べた事実が後に明らかになれば、その後の話し合いを大きく難しくします。取るべき順序は、まず弁護士に相談して、自分の状況で正規に取れる手段と期間を確認することです。相談の内容には守秘義務がかかります。
まず法テラスに連絡してください。収入と資産が一定の基準以下であれば、同一の問題について無料の法律相談を受けられる制度があります。また、弁護士費用を立て替える制度もあり、分割で返済する形を取れる場合があります。制度の要件や運用は変わることがあるため、最新の内容は法テラスに直接確認してください。あわせて、自治体が実施している無料法律相談も選択肢になります。相談だけであれば、費用をかけずに行える方法が複数あります。費用を理由に何もしないまま期間が過ぎることのほうが、結果として大きな損失になります。
まとめ|順序を守れば、判断できる
不安を抱えたときにやることは決まっています。①事実を時系列で書き出す ②期間の制限を確認する ③専門家に相談する。この順序です。検索を繰り返すことでも、問い詰めることでも、鑑定を先に申し込むことでもありません。
とくに②を軽く見ないでください。嫡出否認には出訴期間があり、これを過ぎると、科学的に血縁がないと分かっても法律上の親子関係を争えなくなります。制度は近年改正されており、古い情報のままでは判断を誤ります。
そして、結論を今日出す必要はありません。期間内であれば、考える時間はあります。ただし、相談だけは早めにしてください。法テラスなら、条件を満たせば無料で相談できます。ひとりで抱えている時間が、いちばん苦しく、いちばん失うものが大きい時間です。