婚姻の前に妊娠が分かり、そのまま結婚したあとで「夫の子ではなかった」と判明する。この場合、法律上の親子関係がどうなるかは、婚姻の日と出生の日の間隔によって変わります。
この記事では、その分かれ目と、それぞれの場合に取れる手続きを、条文の仕組みにもとづいて整理します。感情の問題より先に、日付の確認から始めてください。
民法では、婚姻の成立の日から200日を経過した後に生まれた子は、婚姻中に懐胎したものと推定され、夫の子と推定されます。いわゆるデキ婚では、この200日という線をまたぐかどうかで扱いが変わります。200日以内に生まれた場合、推定が及ばないと扱われることがあり、その場合は争い方そのものが変わります。まず戸籍謄本を取って、2つの日付の間隔を数えてください。
嫡出推定という仕組み
まず、制度の骨格を確認します。
なぜ推定するのか
子どもの法律上の父を、出生の時点で速やかに確定させるための仕組みです。血縁を毎回確かめてから決めるのではなく、婚姻という事実から推定するという考え方をとっています。子の身分を早く安定させることが目的です。
婚姻中に懐胎した子
妻が婚姻中に懐胎した子は、夫の子と推定されます。これが基本の形です。
200日という基準
婚姻の成立の日から200日を経過した後に生まれた子は、婚姻中に懐胎したものと推定されます。この推定によって、夫の子とされます。デキ婚の場合、ここが分かれ目になります。
離婚後300日
婚姻の解消の日から300日以内に生まれた子も、推定の対象になります。ただし、母が再婚した後に生まれた子は、再婚後の夫の子と推定されるよう改正されました。この点は、以前の制度と変わっています。
200日以内に生まれた場合
デキ婚で最も多いのが、この形です。
推定が及ばない場合がある
婚姻の成立から200日以内に生まれた子については、婚姻中の懐胎という推定が及ばないものとして扱われてきた経緯があります。この場合、夫の子であるという推定が働かないことになります。
争い方が変わる
推定が及ばない場合、嫡出否認の訴えではなく、親子関係不存在確認という別の手続きで争うことになります。この2つは、申立てができる人も、期間の扱いも異なります。
期間の扱いが違う
ここが実務上、大きな違いです。嫡出否認の訴えには出訴期間がありますが、親子関係不存在確認には、同じ形の期間制限がありません。ただし、長期間が経過した後の申立てについては、別の考慮がされることがあります。
自分がどちらか分からない場合
200日の前後、届出の順序、前の婚姻の有無。これらの組み合わせで扱いが変わるため、自己判断は避けてください。戸籍謄本を持って相談するのが確実です。
200日を過ぎて生まれた場合
婚姻から200日を過ぎて生まれた場合は、原則どおりです。
夫の子と推定される
この場合、婚姻中に懐胎したものと推定され、夫の子と推定されます。血縁の有無にかかわらず、法律上はこの扱いになります。
覆すには嫡出否認の手続き
推定を覆すには、家庭裁判所での嫡出否認の手続きが必要です。そして、そこには出訴期間があります。
期間を過ぎるとどうなるか
最高裁は、科学的に血縁がないことが明らかであっても、期間を過ぎた後は親子関係を争えないと判断しています。DNA鑑定の結果があっても、この結論は変わりません。
誰が申し立てられるか
改正により、嫡出否認の申立ては、夫だけでなく子および母にも認められるようになりました。どの立場からでも、期間内であれば手続きを検討できます。
200日という基準は目安として重要ですが、実際の扱いは、届出の時期、前の婚姻の有無、その他の事情によって変わります。また、推定が及ぶかどうかによって、取るべき手続きも期間も違います。ここを取り違えると、間違った手続きに時間を使うことになります。戸籍謄本を取得したうえで、弁護士に確認してください。法テラスでは、条件を満たせば無料の法律相談を受けられる場合があります。
戸籍の記載について
手続きの結果は、戸籍に反映されます。
出生届の段階
婚姻中に生まれた子は、嫡出子として届け出られ、夫が父として記載されます。この段階では、血縁の確認は行われません。
否認が認められた場合
手続きによって父子関係が否定されると、戸籍の記載が訂正されます。子は母の戸籍に入り、父の欄は空欄になります。
その後に認知を受ける場合
生物学上の父が認知をすれば、その父との間に法律上の親子関係が生じます。認知は、任意に行われる場合と、裁判で求める場合があります。
記載の変更には手続きが必要
いずれの場合も、戸籍は自動的には変わりません。家庭裁判所の手続きを経て、はじめて訂正されます。
実際に何から始めるか
手順を具体的に示します。
戸籍謄本を取得する
婚姻日と出生日を正確に確認するためです。記憶ではなく、書面で確認してください。本籍地の市区町村で取得でき、郵送やコンビニ交付に対応している自治体もあります。
間隔を数える
婚姻の日から出生の日まで、何日あるか。200日を境に扱いが変わるため、この数字が出発点になります。
前の婚姻の有無を確認する
前の婚姻が解消してから300日以内かどうかも、あわせて確認してください。複数の推定が重なる場合、扱いはさらに複雑になります。
専門家に相談する
ここまで確認したら、弁護士に相談してください。資料がそろっていれば、限られた相談時間で具体的な話ができます。
立場別に考えること
どの立場から読んでいるかによって、優先することが変わります。
夫の立場
まず期間の確認を最優先にしてください。感情の整理より先に、いつまでに何ができるかを知る必要があります。離婚と親子関係の否認は別の手続きであり、順序によって結果が変わることがあります。
妻の立場
改正により、母の側からも嫡出否認を申し立てられるようになりました。黙って期間を過ごすことは、この選択肢を手放すことになります。伝えるかどうかを決める前に、法的な帰結を確認してください。
子の生活を最優先に
どの手続きを取るにせよ、子どもの生活が急変しないようにする必要があります。住まい、収入、保育や学校。見通しを立てておいてください。
子の前で争わない
子どもが見聞きする場所で、この問題を話し合わないでください。子どもには何の責任もありません。
2つの手続きの違い
嫡出否認と親子関係不存在確認は、名前が似ていますが別の制度です。違いを整理しておきます。
対象が違う
嫡出否認は、嫡出推定が及ぶ子について、その推定を覆すための手続きです。親子関係不存在確認は、そもそも推定が及ばない場合に、親子関係がないことを確認する手続きです。どちらを使うかは、選べるものではなく、事案によって決まります。
申立てできる人が違う
嫡出否認は、夫、子、母などに限られています。親子関係不存在確認は、確認について法律上の利益がある人が申し立てられるとされ、範囲が広くなります。
期間の扱いが違う
嫡出否認には出訴期間があり、これを過ぎると原則として争えなくなります。親子関係不存在確認には、同じ形の期間制限は定められていません。この違いは実務上とても大きく、どちらに当たるかで見通しが変わります。
まず調停から
どちらの手続きも、家庭裁判所ではまず調停を申し立てるのが原則です。いきなり訴訟から始まるわけではありません。裁判所のウェブサイトに、手続きの説明と申立書の書式が掲載されています。
手続きにかかる費用と時間
実際に動くとなったとき、気になる部分です。
裁判所に納める費用
申立ての手数料は、収入印紙で納めます。金額そのものは高額ではありませんが、そのほかに連絡用の郵便切手が必要です。具体的な額は、申し立てる家庭裁判所に確認してください。
鑑定が行われる場合
手続きのなかでDNA鑑定が行われることがあります。この費用は、申立人が負担するのが一般的です。金額は事案によって異なるため、事前に確認しておいてください。
弁護士に依頼する場合
調停や訴訟を弁護士に依頼すると、着手金と報酬が必要になります。法テラスには、弁護士費用を立て替える制度があり、分割で返済する形を取れる場合があります。費用を理由に何もしないまま期間が過ぎることのほうが、損失は大きくなります。
期間の見通し
調停は、複数回の期日を重ねることが一般的です。数か月単位で見ておく必要があります。鑑定を行う場合は、さらに時間がかかります。出訴期間との関係があるため、申立て自体は早めに検討してください。
よくある質問
200日以内に生まれているため、婚姻中の懐胎という推定が及ばない場合に当たる可能性があります。その場合、嫡出否認ではなく親子関係不存在確認という手続きで争うことになり、申立てができる人や期間の扱いが変わります。ただし、この判断は日数だけで決まるものではありません。届出の時期、前の婚姻の有無、その他の事情によって扱いが変わることがあります。また、推定が及ばないとしても、戸籍上は嫡出子として記載されており、それを変更するには家庭裁判所の手続きが必要です。自己判断で「争える」「争えない」と決めず、戸籍謄本を持って弁護士に相談してください。
法律上の基準になるのは、婚姻届が受理された日です。同居を始めた日ではありません。200日の起算も、婚姻の成立の日から数えます。戸籍謄本には婚姻の日が記載されているため、そこで確認できます。同居の開始時期や交際の経緯は、慰謝料の判断など別の場面では意味を持つことがありますが、嫡出推定が及ぶかどうかの判断は、あくまで戸籍上の日付が基準です。まず戸籍謄本を取得して、正確な日付を確認してください。記憶と戸籍の記載がずれていることは、珍しくありません。
親子関係不存在確認の手続きには、嫡出否認のような明確な出訴期間は定められていません。ただし、「いつまでも自由に争える」と考えるのは適切ではありません。長期間にわたって親子として生活してきた実態がある場合、その事実関係が判断において考慮されることがあります。また、時間が経つほど、子どもへの影響は大きくなります。期間の制限がないことは、急がなくてよいという意味ではありません。むしろ、どの手続きに当たるかを早く確認し、取るかどうかを判断するほうが、結果として全員の負担が小さくなります。
まず前提として、現在の父子関係が法律上残っている間は、別の男性が認知することはできません。順序としては、先に現在の父子関係を否定する手続きを取り、そのうえで認知の問題になります。認知は、相手が任意に行う場合と、認知を求める調停や訴えによる場合があります。認知が認められれば、その父との間に法律上の親子関係が生じ、扶養義務も発生します。ただし、相手の所在が分からない、協力を得られないといった事情があると、実際には難航します。手続きの順序と見通しについては、弁護士に確認してください。
まとめ|200日という線を確認する
デキ婚の場合、法律上の扱いを決めるのは婚姻の日と出生の日の間隔です。200日を経過した後に生まれた子は夫の子と推定され、覆すには嫡出否認の手続きと、期間内の申立てが必要になります。
200日以内に生まれた場合は、推定が及ばないものとして扱われることがあり、その場合は親子関係不存在確認という別の手続きになります。申立てができる人も期間の扱いも違うため、どちらに当たるかの確認が最初の分かれ目です。
やることは決まっています。戸籍謄本を取り、間隔を数え、どの手続きに当たるかを確認し、期間を確かめる。この4つを済ませてから相談すれば、限られた時間で具体的な話ができます。自己判断で結論を出さないでください。