精子提供について調べていると、疑問が次々に出てきます。しかし、それぞれの答えが別々の場所にあり、全体像がつかめないまま時間が過ぎてしまうことがあります。
この記事では、寄せられることの多い疑問を方法・法律・費用・検査・子どもの5つのテーマに分けて、まとめて答えます。全体を把握する目的で使ってください。
個別の疑問に答える前に、共通する原則を示します。公的な情報を基準にすること。書かれていないことは「行われていない」と考えること。その場で決めないこと。この3つを守るだけで、多くの問題を避けられます。そして、どのテーマの疑問であっても、決める前に第三者に相談してください。
テーマ1:方法について
どんな方法があるのか、という疑問から始めます。
どんな選択肢がありますか
医療機関で行うAID、海外の精子バンク、国内の団体を介する方法、個人間の直接のやりとり。この4つが主なルートです。それぞれ、利用できる条件と担保される内容が異なります。
どれを選ぶべきですか
全員に共通する正解はありません。ただし原則はあります。検査・記録・書面の3点が整っているルートを優先し、自分がどの条件に該当するかで絞ってください。
医療機関で断られました
施設ごとに条件が異なるため、他の施設でも確認してください。1か所で断られたからといって、どこでも同じとは限りません。そのうえで、他のルートを検討することになります。
どのくらい時間がかかりますか
医療機関では、初診から実際の処置まで数か月かかることがあります。また、複数回にわたることが前提です。「1回で終わる」計画は立てないでください。
テーマ2:法律について
最も不安の大きい領域です。
親子関係はどうなりますか
生殖補助医療で生まれた子の親子関係については、法律で一定の整理がされています。ただし、すべての状況を網羅しているわけではありません。
あとから認知を求められることはありますか
個人間のやりとりでは、のちに認知や養育費をめぐる問題が生じうると指摘されています。書面があってもすべてが解決するわけではありません。弁護士に相談してください。
書面はどう作ればよいですか
インターネット上のひな形をそのまま使うのは避けてください。状況によって必要な内容が違います。法テラスでは、条件によって無料の法律相談を受けられる場合があります。
出自を知る権利はどうなっていますか
子どもが提供者の情報を知る仕組みは、日本ではまだ制度として確立していません。いま選ぶルートによって、将来知りうる情報の量が変わります。
テーマ3:費用について
見通しが立たないと、動けません。
総額でいくらかかりますか
一律の金額は示せません。ルート、回数、通う距離、仕事の状況によって、総額は何倍も変わります。自分の条件で計算する必要があります。
保険は使えますか
不妊治療には保険が適用される範囲がありますが、提供精子を用いる場合の扱いは、通常の不妊治療とは異なることがあります。受診する医療機関に確認してください。
「無償」と書かれていますが
提供そのものが無償でも、実費や会費という名目で費用が発生することがあります。「総額でいくらになりますか」と確認してください。
高額な前払いを求められました
その場で応じず、契約内容を書面で確認してください。返金の条件、途中でやめた場合の扱いが明示されているかを見てください。困ったときは消費生活センターに相談できます。
テーマ4:検査と安全について
省いてはいけない部分です。
どんな検査が必要ですか
提供者側については、HIV、B型・C型肝炎、梅毒、クラミジアなどの感染症検査です。自分の側も、婦人科での検査を受けておく必要があります。
検査結果はどう確認しますか
書面の写しを見せてもらうことが基本です。「いつ受けたか」も必ず確認してください。数か月前の結果は、その後の状況を保証しません。
相手に検査を求めにくいのですが
「自分も検査結果を出すので、お互いに確認しましょう」という形にすると、対等な依頼になります。確認を嫌がる相手とは進めない、という判断をしてください。
自分は何を準備すべきですか
婦人科での健康チェック、月経周期の把握、風しん抗体の確認。妊娠前でなければできないこともあります。
テーマ5:子どもについて
最も長く関わる問題です。
子どもに伝えるべきですか
いま結論を出す必要はありません。ただし、「伝えるとしたら、そのときに何を示せるか」は、いま決まってしまいます。記録を残す選択だけはしておいてください。
いつ伝えるのがよいですか
年齢に応じた伝え方があり、幼いうちから少しずつ触れていく方法が紹介されています。ある日突然すべてを話すより、負担が小さいとされます。
周囲には話すべきですか
誰に話すかは自分で決めて構いません。全員に話す必要はありませんし、まったく話さないという選択もあります。ただし、相談できる相手を1人は確保してください。
ひとりで育てられるか不安です
不安は自然なものです。漠然と心配するより、収入と支出を計算し、使える制度を確認してください。児童扶養手当など、ひとり親向けの支援があります。
どこに相談すればよいか
疑問の種類によって、適した窓口が違います。
医療のことは不妊専門相談センター
各都道府県などに設置された公的な窓口です。医療の情報だけでなく、気持ちの面の相談も受けています。無料で、電話やメールでも相談できます。
法律のことは弁護士・法テラス
親子関係や書面については、弁護士に相談してください。法テラスでは、条件によって無料の法律相談を受けられる場合があります。
契約のことは消費生活センター
費用や契約でトラブルになった場合は、ここに相談できます。支払う前に相談することが重要です。
制度のことは市区町村の窓口
ひとり親家庭への支援や、子育てに関する制度については、住んでいる市区町村の窓口が詳しく答えられます。
迷ったときの原則
個別の疑問に答えがない場合の、判断の指針です。
公的な情報を基準にする
学会や行政が出している情報を確認してください。そこに書かれていないことは、根拠が確立していないと考えるのが安全です。
書かれていないことは「ない」
サービスの説明にない項目は、行われていないと考えてください。「書いていないだけかもしれない」という期待は、この領域では危険です。
その場で決めない
急かされていると感じたら、それ自体が判断を保留する理由です。持ち帰って考えると伝えて構いません。
ひとりで決めない
この分野の判断は、自分だけでなく生まれてくる子どもの将来にも関わります。決める前に、第三者の視点を一度入れてください。
よくある誤解を正す
質問の背景に、事実と違う思い込みがあることがあります。代表的なものを挙げます。
「1回で妊娠できる」という誤解
どの方法でも、1回で妊娠に至るとは限りません。複数回にわたることが前提です。この認識がないと、費用の計画も、精神的な備えも不足します。回数を仮定して計算しておいてください。
「書面があれば安心」という誤解
書面は重要ですが、それですべての法的な問題が解決するわけではありません。とくに認知に関わる部分は、当事者間の合意だけで完結しないことがあります。だからこそ弁護士への相談が必要です。
「無償なら善意だから安全」という誤解
無償であることと、安全であることは別です。むしろ、費用がかからないぶん、検査も書面も記録も何もない状態であることがほとんどです。善意を疑うのではなく、担保する仕組みがないという構造の問題です。
「若ければ急がなくてよい」という誤解
年齢が若くても、月経に異常がある、過去に手術を受けているといった事情があれば、早めの受診が適切です。年齢だけで判断しないでください。
優先順位をつける
やるべきことが多すぎると感じたときの、順序の付け方です。
最優先は受診と相談
現状がわからないまま何をしても、方向が定まりません。婦人科の受診と、公的窓口への相談。この2つを先に済ませてください。他のことは、そのあとで構いません。
次に、条件の確認
自分がどのルートの条件に該当するかを確認します。電話で聞くだけで済むことも多く、時間はかかりません。ここが決まると、検討すべき範囲が一気に絞られます。
そのあとに、費用と計画
使えるルートが絞られてから、費用を計算してください。すべてのルートについて先に調べようとすると、時間ばかりかかります。
生活習慣の見直しは並行して
禁煙、食事、体重。これらは重要ですが、受診や方針決定より優先されるものではありません。並行して進めれば足ります。
よくある質問
まず、自分の体の状態を確認するところから始めてください。婦人科を受診して、月経周期や排卵の状態、子宮や卵巣の状態を調べます。方法を選ぶ前に、この情報がないと判断ができません。同時に、不妊専門相談センターに連絡して、状況を話してみてください。無料で相談でき、電話やメールにも対応しています。この2つを並行して進めるのが、最も効率のよい始め方です。情報を集めることから始めようとすると、量が多すぎて動けなくなります。受診と相談という具体的な行動から入るほうが、結果的に早く進みます。
この分野の情報には、不安をあおるものが多く含まれます。また、夜に検索を続けると、不安が増えるうえに睡眠も削られます。情報源を、学会や行政のものに限定してみてください。量が減って、質が上がります。そして、調べる時間を決めてください。「21時以降は調べない」といった線を引くだけで、負担はかなり軽くなります。わからないことは、調べ続けるより人に聞くほうが早く解決します。不妊専門相談センターは、こうした状態の相談も受けています。ひとりで情報の海にいる時間を減らしてください。
疑問の種類によって、相談先を選んでください。医療のことなら不妊専門相談センターか医療機関、法律のことなら弁護士か法テラス、契約や費用のことなら消費生活センター、制度のことなら市区町村の窓口です。いずれも、答えが出ていない状態のまま相談して構いません。「何を聞けばよいかわからない」という状態で相談することも、まったく問題ありません。むしろ、そこから整理を手伝ってもらえます。また、インターネットで検索して出てくる情報のうち、個人の体験談は判断の根拠にはなりません。参考として読むにとどめてください。
進める前に、3つだけ確認してください。感染症検査が直近で行われているか。合意内容が書面に残るか。提供者に関する情報が記録され、保存されるか。この3つは、あとから追加できません。決めたあとでも、この確認をする時間はあります。ひとつでも欠けているなら、そこを整えてから進めることをおすすめします。とくに提供者情報の記録は、生まれてくる子どもが将来知りうる情報の有無を決めます。いま省くと、永久に取り戻せません。また、費用や契約に不安がある場合は、支払う前に消費生活センターに相談してください。
まとめ|原則を持っておく
疑問はこれからも出てきます。そのつど調べるより、判断の原則を持っておくほうが確実です。
原則は4つ。公的な情報を基準にする。書かれていないことは「行われていない」と考える。その場で決めない。ひとりで決めない。この4つを守れば、多くの問題を避けられます。
そして、何から始めるか迷っているなら、答えは決まっています。婦人科を受診して現状を確認すること。不妊専門相談センターに連絡して状況を話すこと。この2つです。情報を集めることから始めようとすると、量に押し流されます。具体的な行動から入ってください。