精子提供を検討する過程では、確認すべきことが多岐にわたります。そして、ひとつでも抜けると、あとから取り返しがつかない項目があります。
この記事は、その確認事項を5つの分野・30項目に整理したものです。順番に読んで、いま自分ができていない項目を洗い出すために使ってください。
30項目のなかでも、省いてはいけないのは「感染症検査」「書面」「提供者情報の保存」の3つです。この3つが確保されていないまま進めることは、自分の健康と、生まれてくる子どもの将来の両方を危険にさらします。費用や時間の制約があっても、ここだけは削らないでください。
分野1:医学的な安全(6項目)
まず、健康に関わる部分です。
1〜3:提供者側の検査
①感染症検査の項目は十分か(HIV、B型・C型肝炎、梅毒、クラミジアなど)。②検査はいつ行われたか。時間が経っていれば、その間の状況はわかりません。③検査結果を実際に確認できるか。書面の写しを見せてもらえるかが重要です。
4〜6:自分側の準備
④自分の健康状態を確認したか。婦人科での検査を受けているかです。⑤月経周期や排卵の状態を把握しているか。⑥風しんの抗体を確認したか。妊娠前でなければ接種できません。
分野2:記録と書面(6項目)
あとから作れない部分です。
7〜9:合意の内容
⑦書面を交わすか。口約束は記録として機能しません。⑧誰が何に同意したのかが明記されているか。⑨想定外のことが起きた場合の扱いが書かれているか。
10〜12:提供者の情報
⑩どの範囲の情報が記録されるか。⑪その情報はどこに、いつまで保存されるか。⑫子どもが将来アクセスできる仕組みがあるか。この3点は、子どもの将来に直結します。
分野3:法的な整理(6項目)
知らないまま進めると危険な領域です。
13〜15:親子関係
⑬生殖補助医療に関する法律の内容を知っているか。⑭自分の状況が法律の想定する範囲に含まれるか。⑮親子関係がどう扱われるかを理解しているか。
16〜18:想定されるリスク
⑯のちに認知を請求される可能性を理解しているか。⑰養育費をめぐる問題が生じうることを知っているか。⑱弁護士など専門家に相談したか。書面があってもすべてが解決するわけではありません。
分野4:費用と生活(6項目)
継続できるかどうかに関わります。
19〜21:費用の把握
⑲総額はいくらになるか計算したか。1回あたりではなく総額です。⑳検査・交通・休業などの費目を含めたか。㉑使える上限を決めたか。
22〜24:その後の生活
㉒妊娠後・出産の費用を別枠で見込んでいるか。㉓育児期間の収入の見通しを立てたか。㉔使える支援制度を確認したか。児童扶養手当など、ひとり親向けの制度があります。
分野5:心の準備と関係(6項目)
時間をかけて考えるべき部分です。
25〜27:子どもへの説明
㉕子どもに事実を伝えるかどうかを考えたか。㉖伝えるとしたら、いつ、どう伝えるかの見通しがあるか。㉗そのときに示せる情報を残す準備をしているか。
28〜30:周囲との関係
㉘誰に話すか、話さないかを決めたか。㉙相談できる相手や窓口を確保したか。㉚うまくいかなかった場合にどうするかを考えたか。
30項目のうち、いくつかは空欄のまま進めることになるかもしれません。しかし、①〜③の感染症検査、⑦〜⑫の書面と記録は、埋めないまま進めてはいけません。ここを省いた結果として起きる問題は、あとから修復できません。時間がかかっても、この部分だけは確保してください。
このリストの使い方
読むだけで終わらせないための方法です。
まず全部に目を通す
いきなり埋めようとせず、全体を通して読んで、どんな確認事項があるのかを把握してください。知らなかった項目が見つかるはずです。
空欄を書き出す
できていない項目を紙に書き出してください。頭のなかで数えるより、書いたほうが正確に見えます。
優先度をつける
医学的な安全と、記録・書面が最優先です。この2分野の空欄から埋めてください。心の準備の部分は、時間をかけて考えて構いません。
相談してから進む
埋められない項目があるなら、それは相談すべき事柄です。公的な相談窓口、弁護士、医療機関。ひとりで判断しないでください。
特に注意したい状況
チェックが甘くなりやすい場面を挙げます。
急かされているとき
「今すぐ決めないと」「この機会を逃すと」といった言葉が出てきたら、それ自体が判断を保留する理由です。急がせる相手は、確認されたくないことがあると考えてください。
年齢を理由に焦っているとき
時間の制約は現実ですが、焦りから確認を省くと、その後の問題はさらに大きな時間を奪います。急ぐべきは受診と相談であって、確認を飛ばすことではありません。
相手が親切に見えるとき
親切であることと、必要な担保があることは別です。善意を疑うのではなく、仕組みがないことを認識してください。
誰にも相談していないとき
ひとりで進めていると、判断が偏っていることに気づけません。第三者の視点を一度入れてください。
相談できる先
項目を埋めるために使える窓口を挙げます。
不妊専門相談センター
各都道府県などに設置された公的な窓口です。医療の情報、費用、気持ちの面まで、幅広く相談できます。無料で利用できるところが多くあります。
医療機関
婦人科や不妊専門の施設で、方法や検査について相談できます。受診することと治療を始めることは別です。
法律の専門家
親子関係や書面については、弁護士に相談してください。法テラスでは、条件によって無料の法律相談を受けられる場合があります。
消費生活センター
契約や費用をめぐるトラブルは、ここに相談できます。支払う前に相談することが重要です。
優先3項目をもう少し詳しく
省いてはいけない3つについて、確認の具体的なやり方を補足します。
感染症検査:時期と項目を両方見る
「検査を受けている」という言葉だけでは足りません。いつ受けたのか、どの項目を調べたのかの2点を必ず確認してください。半年前の結果は、その後の状況を保証しません。医療機関を介するルートでは、この管理が体制として組み込まれています。個人間の場合は、提供の直前に、双方が検査を受けることが前提になります。
書面:内容より「あるかどうか」がまず重要
完璧な書面を用意することより、何らかの形で合意内容が文書に残っているかどうかが先です。何も残っていない状態では、のちに認識が食い違ったときに争いようがありません。そのうえで、内容については弁護士に確認してもらうのが確実です。相手が書面を嫌がる場合、その理由を確認してください。
提供者情報:いま決まってしまう部分
これは、あとから追加できない項目です。提供の時点で記録されなかった情報は、将来どれだけ必要になっても存在しません。子どもに伝えるかどうかを今すぐ決める必要はありませんが、伝えられる状態を残しておくかどうかは、いま決まります。
3つとも「相手に確認する」ことが必要
いずれも、自分ひとりでは完結しません。相手にこれらを確認することを、遠慮しないでください。確認を嫌がる相手とは進めない、という判断も含めて、ここは譲るべきではない部分です。
進めながら続けて確認すること
チェックは、始める前だけのものではありません。
回を重ねるごとに検査を確認する
複数回にわたる場合、初回の検査結果がその後もずっと有効というわけではありません。期間が空くときは、改めて確認する必要があります。
費用の実績を確認する
計画した金額と実際の支出がずれていないかを、定期的に見てください。ずれに気づくのが遅いほど、修正が難しくなります。
気持ちの変化を確認する
進めるうちに、考えが変わることがあります。それは迷いではなく、情報が増えたことによる自然な変化です。途中でやめる、方法を変えるという判断も、そのつどしてよいものです。
見直す時期を決めておく
3か月ごと、あるいは半年ごとに、全体を見直す時期を決めておいてください。そのつど考えるのではなく、決めた時期にまとめて考えるほうが、日常の負担が減ります。
よくある質問
すべてを完璧に満たしてから進む必要はありません。ただし、感染症検査と、書面・記録に関する項目だけは例外です。ここを省いた場合の結果は、自分の健康と子どもの将来という、あとから修復できない領域に及びます。それ以外の項目、たとえば子どもへの伝え方や周囲との関係については、時間をかけて考えていくもので、いま結論が出ていなくても構いません。まずは、埋められていない項目を書き出して、優先度をつけてください。そして、埋められない理由が「相談先がわからない」ということなら、それこそ公的な窓口を使うべき場面です。
言いにくいのは自然なことですが、これは省いてよい確認ではありません。言い方としては、「自分も検査結果を出すので、お互いに確認しましょう」という形にすると、対等な依頼になります。実際、自分の側の検査結果も示すべき場面です。もし相手が確認を拒む、はぐらかす、「大丈夫だから」と言うだけであれば、その相手とは進めないという判断をしてください。誠実な相手であれば、確認を求められることを不快には思いません。むしろ、確認を嫌がること自体が重要な情報です。頼みにくさより、健康のほうが優先されるべきです。
インターネット上のひな形をそのまま使うのは避けてください。状況によって必要な内容が違い、また書面があれば法的な問題がすべて解決するわけでもありません。弁護士に相談して、自分の状況に合った内容を確認することをおすすめします。法テラスでは、収入等の条件によって無料の法律相談を受けられる場合があります。費用を理由にここを省くと、あとで生じる問題のほうがはるかに大きな負担になります。少なくとも、誰が何に同意したのか、想定外のことが起きた場合にどうするのかは、明記しておく必要があります。
いま結論を出す必要はありません。ただし、「伝えるとしたら、そのときに何を示せるか」だけは、いま決まってしまいます。提供者の情報が記録されていなければ、将来どれだけ伝えたいと思っても、伝えられるものがありません。だから、伝えるかどうかを決めていなくても、記録を残す選択だけはしておいてください。伝え方そのものについては、子どもの成長に合わせて考えていくもので、これから時間をかけて準備できます。同じ経験をした家庭の実践や、専門家の助言も参考になります。いま必要なのは、将来の選択肢を残しておくことです。
まとめ|空欄を可視化することから
30項目のうち、いま自分が答えられないものはどれか。まずそれを書き出してください。頭のなかで考えているだけでは、抜けに気づけません。
そして、優先順位ははっきりしています。感染症検査、書面、提供者情報の保存。この3つは、費用や時間の制約があっても削ってはいけません。ここを省いた結果は、あとから修復できない領域に及びます。
埋められない項目があるなら、それは相談すべき事柄です。不妊専門相談センター、医療機関、弁護士、消費生活センター。使える窓口はあります。ひとりで判断せず、第三者の視点を一度入れてから進めてください。