精子提供の仲介をうたうサイトや団体は複数存在します。しかし、その質には大きな開きがあり、なかには利用者を危険にさらすものもあります。
この記事では、どこが良いかを推奨するのではなく、自分で評価するための10の軸を示します。この軸に照らせば、多くのものはふるいにかけられます。
10の軸のうち、最も重要なのは「運営者が誰か明示されているか」「感染症検査を要求しているか」「費用の内訳が明示されているか」の3つです。この3つのいずれかが欠けているサービスは、利用を検討する段階に至っていません。また、不明な項目は「なし」として扱ってください。書かれていないことは、行われていないと考えるのが安全です。
軸1〜2:運営者は誰か
最も基本的で、最も見落とされやすい部分です。
①運営者情報の明示
個人か法人か、法人であれば名称は何か。これが書かれていないサービスは、責任の所在がありません。問題が起きたとき、誰に連絡すればよいのかもわかりません。
②連絡先と所在地
メールアドレスだけで、電話番号も所在地もないという場合、いつでも姿を消せる状態です。実在を確認できる情報があるかを見てください。
確認の方法
法人であれば、名称で検索して実在を確認できます。サイトに書かれた情報と、外部で確認できる情報が一致するかを見てください。
書かれていない=ない
「書いていないだけで、あるかもしれない」とは考えないでください。明示する意思がないこと自体が、評価すべき情報です。
軸3〜4:感染症検査の扱い
健康に直結する部分です。
③検査を要求しているか
提供者に対して、感染症検査を必須としているか。「当事者間で確認してください」としているサービスは、この責任を利用者に転嫁しています。
④結果の確認方法
検査結果を、誰がどう確認するのか。提出させているのか、写しを見せるだけなのか、あるいは自己申告なのか。ここに大きな差があります。
検査の時期も重要
いつ受けた検査かも確認してください。数か月前の結果は、その後の状況を保証しません。提供の直前に行われる仕組みがあるかを見てください。
ここが欠けていたら見送る
検査の要求がないサービスは、他がどれだけ整っていても選ぶべきではありません。自分の健康に直接関わる部分です。
軸5〜6:記録と書面
子どもの将来に関わる部分です。
⑤書面の作成を支援するか
当事者間の合意を書面にする支援があるか。「当事者で決めてください」だけでは、支援とは言えません。ひな形の提供や、専門家の紹介があるかを見てください。
⑥提供者情報の記録と保存
提供者に関する情報を、どの範囲で、どこに、いつまで保存するのか。これが最も重要でありながら、最も欠けている項目です。
あとから作れない
書面も記録も、時間が経ってから作ることはできません。提供の時点で残らなかったものは、永久に存在しません。
子どもの視点で見る
いま自分が何を選ぶかは、生まれてくる子どもがのちに何を知りうるかを決めます。この観点で評価してください。
軸7〜8:費用と責任
トラブルの起きやすい部分です。
⑦費用の内訳
何にいくらかかるのかが明示されているか。「応相談」「無償」とだけ書かれている場合は、実際の費用を確認する必要があります。会費、実費、交通費といった名目で費用が発生することがあります。
⑧トラブル時の対応
問題が起きた場合に、運営者がどう対応するのかが示されているか。「一切の責任を負いません」とだけ書かれている場合、それは仲介ではなく場所貸しです。
前払いを求められたら
まとまった金額を先に支払うよう求められた場合は、契約内容を書面で確認してください。返金の条件、途中でやめた場合の扱いが明示されているかを見てください。
相談先を知っておく
契約や費用でトラブルになった場合は、消費生活センターに相談できます。支払う前に相談することが重要です。
軸9〜10:情報の扱いと表現
運営の姿勢が現れる部分です。
⑨個人情報の扱い
登録した情報がどう使われるのか、どこまで公開されるのかが明記されているか。この分野の情報は、極めて機微なものです。扱いが不明確なサービスは避けてください。
⑩表現の過大さ
「必ず」「確実に」「◯%が成功」といった断定的な表現があるか。この分野で確実なことは何もありません。断定する表現は、それ自体が信頼性を下げる材料です。
急かす表現
「今だけ」「限定」「早く決めないと」。こうした表現は、判断する時間を奪うための手法です。見かけたら、その場で決めないでください。
不安をあおる表現
年齢や時間の制約を過度に強調して焦らせるものも、同様に注意が必要です。事実を示すことと、不安をあおることは違います。
10軸のうち、運営者の明示、感染症検査の要求、費用の内訳。この3つのいずれかが欠けているサービスは、比較の土俵に上がっていません。他の項目を検討する前に、除外してください。安全と記録を担保する仕組みがないところで、費用の安さを理由に進めることは、自分と子どもの両方を危険にさらします。
直接質問してみる
公開情報だけでは判断できない場合、質問することで見えてくるものがあります。
質問の仕方
10軸のうち、サイトに書かれていなかった項目について尋ねてください。「感染症検査はどのように確認していますか」「費用の総額はいくらになりますか」といった具体的な聞き方をします。
答え方を見る
内容そのものより、答え方に姿勢が現れます。具体的に答えるか、はぐらかすか、逆に質問を返してくるか。ここが判断材料になります。
不快な反応があったら
質問したことに対して、不機嫌な反応や、疑うのかという返答があった場合。それだけで見送る理由になります。誠実な運営であれば、確認されることを不快には思いません。
記録を残す
やりとりは記録に残してください。メールであれば保存し、電話であればメモを取る。のちに必要になることがあります。
それでも残るリスク
10軸を満たしていても、注意すべきことがあります。
制度に守られていない領域
この分野を直接規律する法制度は、まだ整備の途上にあります。民間のサービスがどれだけ体制を整えていても、公的な監督があるわけではありません。
相手の情報が正しいとは限らない
提供者が申告した情報の真偽を、完全に確認することはできません。これは仲介があっても残る問題です。
のちの請求の可能性
認知や養育費をめぐる問題が生じうると指摘されています。書面があってもすべてが解決するわけではありません。弁護士に相談してください。
医療機関を先に検討する
これらのリスクを踏まえると、まず医療機関で受けられないかを確認するほうが、順序として合理的です。条件に該当しない場合の次善策として考えてください。
10軸で採点してみる
実際に評価するときの、具体的な進め方です。
紙に10行書く
10軸を縦に書き出して、候補ごとに○△×をつけてください。頭のなかで比べると、印象に引きずられます。紙に並べると、欠けている項目が一目でわかります。
△は使わない
「たぶんやっているだろう」という項目は、×にしてください。確認できたものだけが○です。この基準で採点すると、多くの候補が早い段階でふるいにかけられます。
最低条件から見る
運営者の明示、感染症検査、費用の内訳。この3つに×がひとつでもあれば、残りの項目を見る必要はありません。そこで除外して、次の候補に移ってください。
日付を記録しておく
いつ確認した情報かを書き添えてください。サービスの内容は変わることがあり、数か月前の評価が今も有効とは限りません。実際に進める段階で、もう一度確認する必要があります。
医療機関との比較で考える
この10軸は、医療機関と比べることで意味がはっきりします。
医療機関では体制として組み込まれている
感染症検査、記録の保存、診療録の管理。医療機関では、これらが業務の体制として組み込まれています。10軸のうち多くが、確認するまでもなく満たされている状態です。
民間サービスは自分で確認するしかない
一方、仲介サービスでは、これらが行われているかどうかは運営次第です。だからこそ、利用者側が10軸で確認する必要があります。この手間そのものが、両者の違いを表しています。
条件で選べないから、確認で補う
医療機関を利用できる条件に該当しない方が、民間のサービスを検討することになります。その場合、体制で担保されていない部分を、自分の確認で補うという構図になります。
補いきれない部分は残る
ただし、どれだけ確認しても補いきれない部分は残ります。公的な監督がないこと、法制度が整備の途上にあること。この前提を理解したうえで判断してください。
よくある質問
すべてを満たすものが見つからないこと自体が、この領域の現状を示しています。ただし、運営者の明示、感染症検査の要求、費用の内訳。この3つは、譲ってはいけない最低条件です。ここが欠けているものは、比較の対象から外してください。残りの項目については、欠けている部分を自分で補えるかを考えることになります。たとえば、書面の支援がなければ弁護士に依頼する、記録の仕組みがなければ自分で保管する方法を考える、といった対応です。ただし、補いきれない部分は必ず残ります。その状態で進めるかどうかは、公的な相談窓口で状況を話したうえで判断してください。
口コミは、判断の根拠にはなりません。誰が書いたものかを確認できず、運営側が用意したものである可能性も排除できないからです。また、うまくいった人の声は残りやすく、問題が起きた人は語らないという偏りもあります。さらに、この分野では問題が表面化するまでに何年もかかることがあります。子どもの出自に関わる問題は、生まれてから十数年後に生じます。その時点での評価は、いまの口コミには反映されていません。判断するなら、10軸のような客観的な項目で確認してください。誰が運営し、何を担保しているか。それが確認できることのほうが、評価の声より確実です。
仲介を介さない直接のやりとりは、この記事で挙げた10軸のすべてが「なし」の状態です。検査も、書面も、記録も、トラブル時の対応も、何ひとつ担保されていません。加えて、会うこと自体に伴う危険があります。性的な要求や金銭の要求、その後の付きまといといった被害が報告されています。相手が提示した情報の真偽を確認する手段もありません。費用がかからないことは利点に見えますが、それは省かれているものが多いということです。どうしても他に方法がないという状況であっても、進める前に必ず公的な相談窓口に状況を話してください。ひとりで判断しないでください。
まだ実際のやりとりに進んでいないなら、いったん止めて、この10軸で評価し直してください。登録したこと自体は、進める義務を生じさせません。退会や情報の削除ができるかも確認してください。個人情報の扱いについて説明がない場合は、その点も問い合わせる価値があります。すでに費用を支払っている場合や、契約でトラブルになっている場合は、消費生活センターに相談できます。返金の可否も含めて助言を受けられます。また、やりとりの記録は保存しておいてください。相手から不当な要求を受けている場合は、警察に相談することも選択肢に入ります。
まとめ|書かれていないことは、行われていない
サービスを評価するとき、最も重要なのは運営者の明示、感染症検査の要求、費用の内訳の3つです。このいずれかが欠けているものは、比較の土俵に上がっていません。
そして、評価するときの原則があります。不明な項目は「なし」として扱ってください。書かれていないことは、行われていないと考えるのが安全です。「書いていないだけかもしれない」という期待は、この領域では危険です。
そのうえで、10軸を満たしていても残るリスクがあります。この分野は、まだ制度に守られていません。だからこそ、まず医療機関で受けられないかを確認するほうが、順序として合理的です。そして、決める前に必ず公的な相談窓口に相談してください。