出産の準備というと、ベビー用品をそろえることを思い浮かべます。しかし一人で臨む場合、それ以上に重要なのが「動けない時期をどう乗り切るか」の段取りです。
産後は、想像以上に動けません。体は出産のダメージを受けており、睡眠は細切れになります。そこへ買い物、食事の用意、洗濯、そして役所の手続きが重なります。頼れる人が近くにいない場合、この時期をどう設計するかが最大の課題になります。
この記事では、入院から退院後1か月までを想定した準備を、時系列で整理します。
多くの自治体が産後ケア事業を実施しています。宿泊型、日帰りの通所型、自宅への訪問型があり、助産師などから授乳の指導や育児の相談、心身のケアを受けられます。申込を妊娠中から受け付けている自治体が多いため、産後になってから探すのではなく、いまのうちに調べて申し込んでおいてください。
産後ケア事業を知っておく
ひとり親にとって、もっとも心強い制度のひとつです。
3つの型がある
宿泊型は、産科の医療機関や助産院に泊まって、心身のケアを受けながら育児の指導を受けられます。通所型は日帰りで施設に通う形、訪問型は助産師などが自宅を訪ねてくれる形です。ご自身の状況に合わせて選べます。
何をしてもらえるのか
授乳の指導、乳房のケア、育児の相談、そして休養です。「うまく授乳できているか分からない」「何をどう聞けばいいかも分からない」という状態のときに、専門職がそばにいてくれる意味は大きくなります。
妊娠中に申し込む
多くの自治体が妊娠中から申込を受け付けています。産後は調べる余力がありません。妊娠届を出すときに、産後ケア事業について必ず尋ねてください。費用の一部を自治体が負担する仕組みになっていることが多く、自己負担は抑えられます。
入院の準備
荷物は産院から案内があるはずですので、ここでは一人で臨む場合に特有の準備を挙げます。
移動手段を決めておく
陣痛が始まったときにどうやって病院へ行くか。自分で運転するのは難しいため、タクシーの手配が現実的です。陣痛時に優先して配車してくれるサービスに登録できる地域もあります。事前に登録し、連絡先を手元に置いておいてください。
連絡先を紙にまとめる
スマートフォンが使えない状況も想定して、病院、タクシー、頼れる人の連絡先を紙に書いて母子健康手帳に挟んでおいてください。
入院中の手続き書類も持っていく
出生届の用紙、児童手当の申請書など、記入できるものは入院中に書いておけます。産後の外出が減らせます。
立ち会いと面会
一人で臨む場合に、気持ちの面で気になるのがこの部分です。
立ち会いがなくても問題はない
立ち会いは必須ではありません。助産師や看護師が付いてくれます。一人で出産する方は珍しくなく、産院のスタッフもそれを前提に対応してくれます。事前に「立ち会いはありません」と伝えておけば、それで十分です。
面会の方針を確認しておく
面会の可否や時間帯は産院によって異なります。誰かに来てほしい場合は、事前に確認しておいてください。
不安があれば産院に伝えておく
「一人で不安がある」と事前に伝えておくと、声をかけてもらいやすくなります。助産師は、そうした相談を日常的に受けています。遠慮する必要はありません。
退院後1か月をどう乗り切るか
もっとも厳しいのがこの時期です。ここを設計できているかどうかで、その後の負担が変わります。
食事をどう確保するか
買い物に行く余力はありません。次のいずれかを組み合わせて、あらかじめ準備しておいてください。
- 冷凍の作り置きを妊娠中に用意しておく
- 食材や総菜の宅配サービスに登録しておく
- レトルトや冷凍食品を多めに買い置きしておく
- 産後専門の食事の宅配サービスを利用する
家事をどうするか
自治体の産後ヘルパー派遣や、ファミリーサポートの制度があります。いずれも事前の登録と面談が必要な場合が多く、産後になってから申し込んでも間に合いません。妊娠中に手続きを済ませておいてください。
買い物は届けてもらう
おむつやミルクは、定期的に届くよう手配しておくと安心です。重くてかさばるものほど、宅配に切り替える価値があります。
産後の手続きを人に頼む
出生届は生まれた日を1日目として14日以内に提出する必要があります。この時期に自分で役所へ行くのは大きな負担です。
届出人と持参する人は別でよい
未婚の場合、出生届の届出人は母になります。しかし、実際に窓口へ持っていくのは別の方でも構いません。ご家族や信頼できる方に頼めるよう、記入方法と持ち物を事前に共有しておいてください。
あわせて申請するものを一覧にしておく
児童手当、乳幼児医療費助成、健康保険への加入、児童扶養手当。必要書類と窓口を一覧にして渡しておけば、代わりに動いてもらいやすくなります。
夜をどう乗り切るか
一人で乳児を育てるとき、いちばんきついのが夜です。ここだけは、事前の工夫が効きます。
授乳の動線を短くする
夜中の授乳やおむつ替えのために、そのたびに部屋を移動していると体力が削られます。寝る場所のすぐそばに、必要なものをまとめて置いておくだけで負担は変わります。おむつ、おしりふき、着替え、飲み物、照明。手を伸ばせば届く位置に置いてください。
細切れでも横になる
まとまった睡眠は取れない前提で考えてください。子どもが寝ている間に家事を片づけたくなりますが、この時期は横になることを優先したほうが結果的に回ります。家事は後回しでよいと、あらかじめ自分に許可しておいてください。
不安なときに連絡できる先を確保する
夜中に子どもの様子がおかしいと感じたとき、一人だと判断に迷います。小児救急の電話相談窓口があり、看護師や医師に相談できます。番号を紙に書いて、目に入る場所に貼っておいてください。かかりつけの小児科の夜間対応についても、事前に確認しておくと安心です。
自分の体を後回しにしない
ひとり親がもっとも陥りやすいのが、自分のことを後回しにすることです。
産後健診は必ず受ける
産後1か月ごろの健診は、体の回復を確認する重要な機会です。子どもの健診とあわせて設定されることが多いので、忘れずに受けてください。
気持ちの落ち込みは相談してよい
産後は、ホルモンの変化と睡眠不足から気持ちが不安定になりやすい時期です。一人で過ごす時間が長いと、その傾向は強まります。「疲れているだけ」と片づけないでください。産後ケア事業や、自治体の保健師への相談が使えます。
ひとり親家庭等医療費助成を使う
この制度は、子どもだけでなく親自身の医療費も対象になります。自分の受診をためらわないためにも、早めに手続きしておいてください。
生後1か月から3か月をどう過ごすか
退院直後を乗り切ったあとも、しばらくは外出が難しい時期が続きます。この期間の設計も、あわせて考えておいてください。
外出の練習は少しずつ
1か月健診が済むと、少しずつ外出できるようになります。ただし、いきなり長時間の外出は負担になります。近所を短時間歩くところから始めて、移動の感覚をつかんでください。ベビーカーで通れる経路、授乳やおむつ替えができる場所を確認しておくと、行動範囲が広がります。
予防接種のスケジュールを把握する
生後2か月から予防接種が始まります。種類が多く、間隔にも決まりがあるため、スケジュールの管理が必要です。小児科で相談すれば、計画を立ててもらえます。かかりつけの小児科を、この時期までに決めておいてください。
孤立しない工夫をする
一人で乳児と過ごす時間が続くと、大人と話す機会がほとんどなくなります。自治体の子育て支援センターや、乳幼児向けの集まりは、こうした時期に使える場所です。同じ月齢の子を育てている人と話すだけでも、気持ちの負担は変わります。
相談先を持っておく
体調のこと、育児のこと、気持ちのこと。相談できる先を確保しておいてください。自治体の保健師、産後ケア事業、小児科。「これくらいで相談していいのか」と迷う必要はありません。そのための窓口です。
用意するもの・しなくてよいもの
ベビー用品は、すべてを新品でそろえる必要はありません。
| 優先度 | もの |
|---|---|
| 先に必要 | おむつ、おしりふき、肌着、退院時の衣類、寝る場所 |
| すぐ必要になる | 沐浴の道具、体温計、爪切り、洗濯用の洗剤 |
| 後でよい | おもちゃ、外出用の道具、季節が先の衣類 |
| 借りる・譲り受ける | ベビーベッド、チャイルドシート、抱っこ紐 |
自治体によっては、育児用品の貸出やリユースの仕組みを設けているところもあります。買う前に、借りられないかを確認してください。
妊娠中に済ませるチェックリスト
最後に、産後の負担を減らすために妊娠中にやっておくことをまとめます。
- 産後ケア事業の内容を調べ、申し込む
- 産後ヘルパーやファミリーサポートに登録する
- 食材や総菜の宅配サービスに登録する
- 陣痛時のタクシーの手配方法を確認し、登録する
- 出生届の用紙を受け取り、記入できる欄を埋める
- 産後に申請する制度の必要書類と窓口を一覧にする
- 書類の提出を頼める人を決め、内容を共有する
- 作り置きの冷凍と、日用品の買い置きをする
よくある質問
制度で埋めることを前提に組み立ててください。産後ケア事業の宿泊型を使えば、産後の一定期間を施設で過ごしながらケアを受けられます。退院後は産後ヘルパーの派遣やファミリーサポートで家事と育児を補い、食事は宅配でまかなう。買い物は届けてもらう。この組み合わせで、人手のない状態でも回せる形を作れます。重要なのは、これらがすべて事前の登録や申込を必要とするという点です。産後に探し始めても間に合いません。妊娠中に、自治体の母子保健の窓口で「頼れる人がいないので、使える制度を全部教えてほしい」と相談してください。
伝えておくことをおすすめします。理由を詳しく説明する必要はありません。「立ち会いはありません」「産後に頼れる人が近くにいません」と伝えるだけで十分です。産院はそうした状況を日常的に扱っており、退院後の支援について助産師から情報をもらえることもあります。むしろ伝えていないと、退院の説明が「ご家族と協力して」という前提で進んでしまい、あとで困ることになります。妊婦健診の際に、助産師に相談してみてください。
自治体が費用の一部を負担する仕組みになっているため、自己負担は抑えられます。金額や利用できる回数は自治体によって異なり、所得の状況に応じて減免される場合もあります。宿泊型、通所型、訪問型で費用は変わります。詳しくは、お住まいの自治体の母子保健の窓口でご確認ください。なお、費用を理由にためらう必要はありません。この時期に無理をして体調を崩すと、その後の生活すべてに影響します。使えるものは使う、という判断が結果的にいちばん経済的です。
頼れるご家族がいる場合、産後の負担は確実に軽くなります。ただし、いくつか確認しておくことがあります。まず、里帰り先で健診や出産を受けられるか。受け入れの時期に条件を設けている産院もあります。次に、出生届は里帰り先の役所でも提出できますが、児童手当などの申請は住民票のある自治体で行う必要があるため、手続きの段取りを整理しておく必要があります。また、長期の同居が児童扶養手当の判定に影響するかどうかも、事前に確認しておくと安心です。里帰りの期間を決めて、戻ったあとの生活も含めて設計してください。
まとめ|産後の段取りは、妊娠中にしか作れない
一人で出産に臨むときの準備は、ベビー用品をそろえることではありません。動けない時期をどう乗り切るかの段取りを作ることです。
産後ケア事業、産後ヘルパー、ファミリーサポート、食事の宅配、陣痛時のタクシー。これらはいずれも、事前の登録や申込を必要とします。産後になってから探し始めても間に合いません。
そして、出生届をはじめとする手続きは、代わりに動いてもらえる人を決めておいてください。届出人は自分でも、窓口へ持参するのは別の方で構いません。妊娠中の動ける時期に、産後の生活を設計しておく。それが、一人で臨むときのいちばん確実な備えです。