「子ども一人を育てるのに3000万円かかる」。こうした数字を目にして、不安になった方は多いと思います。しかしこの手の総額は、前提が示されないまま独り歩きしがちです。公立に通うのか私立に通うのか、大学に行くのかどうかで、金額はまったく変わります。

この記事では、公的な統計をもとに、子育てにかかるお金を段階ごとに分けて見積もります。そのうえで、公的な支援でどこまで補えるのかまで含めて考えます。総額に驚く前に、内訳を知ってください。

💡 先に要点だけ

文部科学省の調査によると、3歳から高校卒業まですべて公立に通った場合の学習費の総額は約596万円、すべて私立の場合は約1,976万円です。この差が示すとおり、進路の選択によって必要額は3倍以上変わります。「一律にいくらかかる」という数字は、あまり意味を持ちません。

学習費の目安(1年間・子ども1人あたり)学習費の目安(1年間・子ども1人あたり) を表形式で比較した図学習費の目安(1年間・子ども1人あたり)公立私立幼稚園約18万5千円約34万7千円小学校約36万7千円約174万円3歳から高校卒業までの総額約596万円約1,976万円

まず費用を3つに分ける

子育て費用は、性格の違う3つに分けると見通しが立ちます。

1. 一時的にかかるお金

出産費用、ベビー用品の購入、入学時の準備、進学のための費用など。まとまった額が特定の時期に必要になるものです。あらかじめ備えておく必要があるのはこの部分です。

2. 毎月かかるお金

食費、衣類、日用品、保育料など。月々の家計に組み込まれる部分です。子どもの年齢によって内訳は変わりますが、大きく変動するものではありません。

3. 教育にかかるお金

学校の費用と、塾や習い事の費用です。ここが総額の差を生む最大の要因になります。進路の選択によって、金額は何倍も変わります。

妊娠・出産の費用

最初の関門ですが、公的な給付でかなり軽減されます。

妊婦健診

妊娠中は定期的に健診を受けます。自治体から補助券が交付され、費用の多くが公費でまかなわれます。ただし、追加の検査などで自己負担が生じることもあります。

分娩・入院の費用

出産にかかる費用は、医療機関や地域によって幅があります。これに対して、健康保険から出産育児一時金が支給されます。多くの場合、医療機関に直接支払われる仕組みを利用できるため、窓口での負担は差額のみになります。

産休中の収入

勤務先の健康保険に加入している方は、産休期間について出産手当金を受け取れる場合があります。また、育休期間については雇用保険から育児休業給付金が支給されます。収入がゼロになるわけではないという点は、見通しを立てるうえで重要です。

乳幼児期にかかるお金

0歳から就学前までの時期です。

保育料

保育所などの利用料は世帯の所得に応じて決まります。3歳から5歳までについては、幼児教育・保育の無償化により多くの世帯で無償です。0歳から2歳までについては、住民税が非課税の世帯を対象とした無償化が行われています。ひとり親世帯には軽減の措置もあります。

日々の養育費

おむつ、ミルク、衣類、日用品。この時期は消耗品の支出が中心になります。成長が早いため、衣類の買い替えも頻繁です。一方、食費はまだ大きくありません。

医療費

子ども医療費助成により、自己負担がかなり軽くなります。助成の範囲は自治体によって差が大きいため、住む地域を選ぶ材料にもなります。乳幼児期は体調を崩しやすく、受診の回数も多くなるため、この助成の効果は実感しやすいはずです。

小学校・中学校の費用

文部科学省が2年ごとに実施している子供の学習費調査から、目安を見ます。

学習費総額の内訳

この調査では、保護者が1年間に支出した子ども1人あたりの経費を、学校教育費、学校給食費、学校外活動費に分けて把握しています。令和5年度の調査によると、小学校の学習費総額は公立で年間約36万7千円、私立で年間約174万円でした。

差を生むのは「学校外活動費」

公立の小中学校では、授業料はかかりません。それでも金額に差が出るのは、塾や習い事といった学校外活動費の影響が大きいためです。ここは各家庭の方針で調整できる部分でもあります。

就学援助という制度がある

経済的な理由で就学が困難な家庭に対して、学用品費、給食費、修学旅行費などを補助する制度です。所得の状況によって適用されます。申請は学校または教育委員会を通じて行います。

費用を段階に分けて考える費用を段階に分けて考える の各段階を左から順に示した図費用を段階に分けて考える1妊娠・出産健診と分娩の費用。給付で大きく軽減される2乳幼児期保育料と日々の養育費。無償化の対象がある3小中学校義務教育。学校外活動費の差が大きい4高校以降学費が上がる。手当は高校生年代で終わる

高校以降の費用

費用が上がる時期であると同時に、支援が減る時期でもあります。

高校の学費

調査によると、公立高校の学習費総額は学年によって差があり、第1学年がもっとも高くなる傾向があります。入学時の準備に費用がかかるためです。高等学校等就学支援金により、授業料の負担は軽減されます。

児童手当と児童扶養手当が終わる

ここが重要です。児童手当は高校生年代までが対象、児童扶養手当も18歳に達した日以後の最初の3月31日までが対象です。もっともお金がかかる時期に、手当が終わります。

⚠️ この段差を早くから意識しておく

高校卒業後に進学する場合、学費は大きく上がる一方で、手当はなくなります。この段差に備えるには、早い段階からの積立が必要です。子どもが小さいうちに「毎月いくら」を決めて積み立てておくことが、いちばん確実な備えになります。

進学のための支援制度

大学等への進学については、高等教育の修学支援制度による授業料等の減免と給付型の奨学金があります。また、ひとり親家庭を対象とした貸付制度も設けられています。制度があることを知っておくだけで、進路の選択肢が変わります。

総額はどう考えるか

文部科学省の調査をもとにすると、3歳から高校卒業まですべて公立に通った場合の学習費の総額は約596万円、すべて私立の場合は約1,976万円になります。

これは「学習費」だけの金額

注意していただきたいのは、この数字が学習費に限られたものだということです。食費、衣類、住居費の増加分といった日々の養育費は含まれていません。総額を考えるときは、この部分を別に足す必要があります。

公的な支援を差し引いて考える

一方で、支出を見積もったら、受け取れる支援も並べてください。児童手当は、生まれてから高校生年代まで受け取れば累計でまとまった額になります。児童扶養手当を受けられる場合、その額はさらに大きくなります。医療費の助成、保育の無償化、就学援助も加わります。

支出だけを積み上げると絶望的な数字になりますが、支援を差し引くと見え方は変わります。両方を並べて考えてください。

積立をどう始めるか

将来に備える方法は複数ありますが、大切なのは金額より仕組みにしてしまうことです。

児童手当をそのまま貯める

もっとも手軽で確実な方法です。児童手当は生まれてから高校生年代まで支給され、累計ではまとまった額になります。振込先を生活費の口座と分けておけば、使わずに残ります。「余ったら貯める」ではなく、「入ったら別口座」にしてください。

先取りで積み立てる

給与から自動的に一定額を貯蓄用の口座に移す仕組みを作ります。勤務先に財形貯蓄の制度があれば利用できますし、金融機関の自動積立でも構いません。手元に残ったお金を貯めようとすると、まず残りません。

学資保険や積立投資という選択肢

教育資金を準備する商品も複数あります。ただし、それぞれに特徴とリスクがあり、途中で解約すると不利になるものもあります。ひとり親の場合、収入が途切れる可能性も考えて、途中でやめても損をしにくい形から始めるのが無難です。

無理のない金額から始める

月に数千円でも、18年続ければ相応の額になります。金額を大きくして続かなくなるより、少額でも止めないほうが結果は良くなります。収入が増えたときに額を上げる、という進め方で十分です。

自分の場合を見積もる手順

一般的な数字より、自分の条件での見積もりのほうが役に立ちます。次の手順で計算してみてください。

ステップ1|出産までの費用を出す

健診の自己負担、分娩費用の見込み、出産準備品。ここから出産育児一時金を差し引きます。

ステップ2|産後1年間の収支を出す

収入が減る期間と、その間の給付金。支出は、いまの生活費に子ども1人分を足します。この1年がもっとも収支が厳しくなる時期です。

ステップ3|復職後の月々の収支を出す

保育料を含めた支出と、収入、そして受け取れる手当。ここが安定すれば、長期的な見通しが立ちます。

ステップ4|進学時の備えを決める

高校卒業後の進路をどう考えるかによって、必要な積立額が変わります。金額を決めきれなくても、「毎月いくら積み立てるか」だけは決めておくことをおすすめします。

見積もるときに分けて考える6項目見積もるときに分けて考える6項目 のチェック項目一覧見積もるときに分けて考える6項目出産までにかかる一時的な費用毎月の養育費(食費・衣類・日用品)保育や教育にかかる費用医療費(助成でかなり軽くなる)住居費の増加分進学時にまとまって必要になるお金

よくある質問

Q 「子ども一人3000万円」という数字はどこから来ているのですか?

試算の前提によって数字は大きく変わります。よく見かける数千万円という数字は、教育費に加えて食費や衣類などの養育費を含め、大学まで進学する前提で計算したものが多いようです。前提が違えば結論も違うため、こうした数字を自分に当てはめて不安になる必要はありません。文部科学省の調査は、実際に保護者が支出した額を集計したもので、学校種別ごとの目安として信頼できます。まずはこうした公的な統計で内訳を確認し、そのうえで自分の条件に置き換えて計算してみてください。

Q ひとり親だと、費用は余計にかかりますか?

子どもにかかる費用そのものは変わりません。違ってくるのは、世帯の収入が一人分であること、そして頼れる人が少ないぶんサービスを利用する場面が増えることです。病児保育やベビーシッターの利用、家事の外注などが必要になれば、その分の支出は増えます。一方で、ひとり親を対象とした支援は複数あり、児童扶養手当や医療費助成、保育料の軽減が受けられます。支出と支援の両方を並べて考えれば、極端に不利になるわけではありません。重要なのは、使える制度をもれなく申請しておくことです。

Q いくら貯まっていれば産んでも大丈夫でしょうか?

金額で線を引くことはできません。住んでいる地域の家賃、働き方を続けられるかどうか、頼れる人がいるかどうかで、必要額はまったく変わるためです。目安を探すより、次の3つを自分の条件で計算するほうが確実です。出産までにかかる一時的な費用。産後に収入が減る期間の生活費。そして、緊急時のための備え。この3つを足した額が、当面必要な金額の目安になります。そのうえで、毎月の収支が回るかどうかを確認してください。詳しくは、貯金と家計の記事もあわせてご覧ください。

Q 収入が少ないと、子どもに我慢をさせることになりませんか?

この不安を口にされる方は非常に多くいます。ただ、費用の内訳を見ると、差が大きく出るのは学校外活動費、つまり塾や習い事の部分です。義務教育の期間、授業料はかかりません。医療費も助成でかなり軽減されます。給食費や学用品費についても、就学援助という制度があります。つまり、基本的な部分は公的な制度でかなり支えられているということです。そのうえで、進学については高等教育の修学支援制度や給付型の奨学金といった仕組みがあります。制度を知り、早めに情報を集めておくことが、選択肢を残すいちばんの方法です。

Q 住む地域によって、かかるお金は変わりますか?

かなり変わります。まず家賃が違います。そして、子ども医療費助成の対象年齢や助成の範囲が自治体によって大きく異なります。中学生までのところもあれば、高校生年代まで対象にしているところもあります。保育料の軽減、ひとり親向けの独自の給付、公営住宅の状況も自治体差が大きい部分です。引っ越しを検討できる状況であれば、子育て支援の内容を住む場所の選択材料にするという考え方もあります。転居先の自治体のサイトで、ひとり親家庭向けの案内ページを比べてみてください。

まとめ|総額ではなく、段階で考える

子育て費用は、総額で考えると圧倒されます。しかし実際には、一時的にかかるお金、毎月かかるお金、教育にかかるお金の3つに分かれ、必要になる時期も違います。

文部科学省の調査では、3歳から高校卒業まですべて公立で約596万円、すべて私立で約1,976万円という差が示されています。進路の選択で3倍以上変わるのですから、「一律にいくら」という数字にとらわれる必要はありません。

そして、支出を見積もったら必ず支援も並べてください。児童手当、児童扶養手当、医療費助成、保育の無償化、就学援助。これらを差し引けば、見え方はかなり変わります。注意すべきは、高校卒業のタイミングで手当が終わり、その直後に進学費用がかかることです。この段差にだけは、早くから備えておいてください。