制度は、知っているだけでは使えません。そして、制度の名前を知らなければ調べることもできません。「何を聞けばいいか分からない」という状態こそ、相談窓口を使うべき状態です。
この記事では、ひとり親家庭が使える相談先を目的別にまとめます。どこも無料で、何も決まっていない段階でも相談できます。
どこに相談すればよいか分からないときは、お住まいの市区町村の窓口で「ひとり親で子育てをすることになりました。使える制度をすべて教えてください」と伝えてください。担当が違えば、適切な部署につないでもらえます。何も調べていない状態で行って構いません。
母子・父子自立支援員|制度全般の相談窓口
ひとり親家庭の相談を専門に担当する職員で、福祉事務所などに配置されています。この記事でもっともおすすめしたい窓口です。
相談できる範囲が広い
手当や貸付といった経済的なこと、就労のこと、養育費のこと、子どもの不登校や発達のこと、心身の病気のこと。制度の縦割りを越えて、生活全体について相談できるのが最大の利点です。
「まだ何も決まっていない」段階でよい
妊娠を考えている段階、これから出産する段階でも相談できます。制度の説明を聞くだけでも構いません。むしろ、動く前に相談しておくほうが、あとで取りこぼしが減ります。
継続して相談できる
一度きりの窓口ではありません。状況が変わったときに、また相談できます。同じ担当者が継続して関わってくれることも多く、経緯を毎回説明しなくて済みます。
こども家庭センター|子どもと家庭のこと
子どもと家庭のさまざまな問題について、相談援助を行う機関です。0歳から18歳未満の子どもに関する相談を受け付けています。
育児の不安、子どもの発達に関する心配、家庭の状況が厳しいときの支援。「虐待の相談窓口」というイメージを持たれがちですが、実際にはもっと幅広い相談を受けています。育児がつらいと感じたときに、ためらわずに使ってよい窓口です。
ひとり親家庭等就業・自立支援センター|仕事のこと
都道府県や市が実施する事業で、就業に関する相談、講習会、求人情報の提供を行っています。
一般の職業紹介との違い
子どもの預け先や勤務時間の制約を前提に相談できる点が違います。「保育園のお迎えが18時なので」という条件を最初から共有したうえで、現実的な選択肢を一緒に探せます。
資格取得の支援もここから
高等職業訓練促進給付金や自立支援教育訓練給付金といった制度についても、ここで相談できます。これらの給付金は、受講を始める前に相談して指定を受けておく必要があります。学び始めてからでは対象にならないことがあるため、必ず先に相談してください。
お金を借りたいとき
ひとり親家庭と寡婦を対象とした福祉資金の貸付制度があります。目的別に12種類の資金が用意されており、無利子または低利で借りられます。
- 修学資金・就学支度資金 ── 子どもの進学にかかる費用
- 技能習得資金・修業資金 ── 資格取得や技能の習得
- 住宅資金・転宅資金 ── 住まいの確保や引っ越し
- 生活資金 ── 生活の立て直しが必要なとき
- 就職支度資金 ── 就職にあたって必要な費用
- 医療介護資金 ── 医療や介護が必要になったとき
申し込めばすぐ借りられるものではなく、事前の相談と審査が必要です。時間がかかることを前提に、早めに相談してください。民間の借入を検討する前に、まずこちらを確認する価値があります。
体と心のこと
妊娠中から産後にかけての相談先です。
保健センター・保健師
妊娠届を出したときから関わりが始まります。妊娠中の不安、産後の育児、子どもの発育。継続して相談できる相手として、早い段階でつながっておくことをおすすめします。
産後ケア事業
多くの自治体が実施しています。宿泊型、日帰りの通所型、自宅への訪問型があり、助産師などから授乳の指導や育児の相談、心身のケアを受けられます。申込を妊娠中から受け付けている自治体が多いので、産後になってから探すのではなく、いまのうちに調べてください。
気持ちが落ち込んだとき
産後は、ホルモンの変化と睡眠不足から気持ちが不安定になりやすい時期です。一人で過ごす時間が長いと、その傾向は強まります。「疲れているだけ」と片づけず、保健師や産後ケア事業に相談してください。
トラブルに遭ったとき
備えとして知っておいてください。
契約や勧誘をめぐる被害
消費生活センターが相談を受け付けています。高額な費用を請求された、事前に説明のなかった請求をされたといった場合に使えます。全国共通の電話番号から、最寄りの窓口につながる仕組みがあります。
身の危険を感じる場合
脅されている、つきまとわれているといった場合は、警察に相談してください。相談専用の電話番号があり、緊急でない相談も受け付けています。
法律に関わる問題
認知、養育費、親子関係といった法律の問題は、弁護士への相談が必要です。費用が心配な場合は、収入が一定以下の方を対象に、無料の法律相談や弁護士費用の立替えを行う制度があります。
職場での不利益な扱い
妊娠や出産、産休・育休の取得を理由とする不利益な扱いは法律で禁止されています。都道府県の労働局に相談窓口が設けられています。相談のときに役立つのが記録です。いつ、誰に、何を言われたかをメモしておいてください。
段階ごとに、どこへ相談するか
相談先は状況によって変わります。時期ごとの目安をまとめます。
妊娠を考えている段階
母子・父子自立支援員に、使える制度の全体像を聞いてください。児童扶養手当の要件、保育園の状況、住まいの支援、就業の支援。これらを知っておくだけで、生活の設計が具体的になります。まだ妊娠していなくても相談できます。
妊娠中
妊娠届を出すときに、保健センターとつながります。あわせて、産後ケア事業、産後ヘルパー、ファミリーサポートの登録を済ませてください。いずれも事前の登録が必要で、産後に探しても間に合いません。
出産後
出生届と同時に児童手当と医療費助成を申請します。児童扶養手当は担当課が別のことが多いので、必要書類を先に確認しておいてください。産後の体調や気持ちのことは、保健師に相談できます。
復職・保育園を考えるとき
保育の担当課で利用調整の仕組みを確認し、就業のことは就業・自立支援センターで相談します。資格取得を考えるなら、受講を始める前に給付金の相談を済ませてください。
子どもが就学したあと
就学援助は学校または教育委員会が窓口です。進学にかかる費用については、貸付制度の相談を早めに始めてください。子どもが18歳になる年度末で児童扶養手当が終わるため、その前に見通しを立てておく必要があります。
相談するときのコツ
相談を実りあるものにするための、いくつかの工夫です。
整理できていなくてよい
「うまく説明できないから」と躊躇する必要はありません。困っていることを箇条書きにしたメモを持っていけば十分です。整理を手伝うのも、相談員の役割です。
「使える制度を全部教えてください」と聞く
制度の名前を知らないと、ピンポイントでは尋ねられません。網羅的に聞くのが、いちばん取りこぼしが少ない方法です。「私の状況で使える制度をすべて教えてください」と伝えてください。
聞いたことを書き留める
制度名、担当課、必要書類、期限。その場で聞いたことは、必ずメモしてください。あとで思い出せなくなります。
断られても、言い方を変えて聞き直す
「その制度は対象外です」と言われても、条件の一部を満たしていないだけということがあります。「では、どういう条件なら対象になりますか」「近い制度はありませんか」と聞き直してみてください。窓口の担当者も、すべての制度を把握しているとは限りません。
一度で終わらせない
状況が変われば、使える制度も変わります。妊娠中、出産後、保育園に入るとき、就学するとき。節目ごとに相談することをおすすめします。
民間の団体・当事者のつながり
公的な窓口のほかに、民間の支援団体や当事者の集まりもあります。
ひとり親家庭を支援する団体、精子提供で生まれた当事者の自助グループ、地域の子育てサークル。制度の相談とは違い、同じ立場の人と話せる場としての意味があります。
公的な窓口では「制度の話」になりがちですが、気持ちの部分は同じ経験をした人のほうが分かり合えることもあります。両方を使い分けてください。
よくある質問
相談して構いません。むしろ、動く前に相談しておくほうが有効です。児童扶養手当の要件、保育園の状況、住まいの支援、就業の支援。これらを事前に知っておけば、生活の設計が具体的になります。「一人で子どもを育てることを考えているのですが、どんな支援があるか知りたい」と伝えれば、制度の説明を受けられます。窓口は、実際に困っている人だけのものではありません。準備のために使うことも、本来の使い方です。
制度の申請にあたって、妊娠に至った経緯を説明する必要は基本的にありません。児童扶養手当の要件は「婚姻によらずに生まれた子を養育していること」であり、その経緯は問われません。保育園の利用調整でも、児童手当でも同じです。書類の上では、戸籍からひとり親であることが確認されるだけです。ただし、生活全体の相談をする場面で、ご自身が話したいと思えば話して構いません。相談員には守秘の義務があります。話すかどうかは、あなたが決めてよいことです。
担当者によって対応に差があるのは事実です。まず、別の日に改めて相談してみてください。担当が変わることがあります。それでも改善しない場合は、ひとり親家庭の相談を専門に担当する母子・父子自立支援員を指名して相談する、あるいは都道府県の窓口に相談するという方法があります。また、民間の支援団体に相談し、そこから公的な窓口につないでもらうという道筋もあります。一度の対応で「相談しても無駄だ」と諦めないでください。使える制度は確実に存在します。
自治体によっては、夜間や休日の相談日を設けているところ、電話やオンラインでの相談に対応しているところがあります。まずは自治体のサイトで相談の受付方法を確認してください。また、多くの手続きは郵送やオンラインで進められる部分があります。窓口へ行く必要があるのは最終段階だけということも珍しくありません。電話で「平日に行けないのですが、どう進めればよいですか」と尋ねれば、方法を案内してもらえます。
相談を受ける職員には守秘の義務があります。相談の内容が、本人の同意なく他に伝えられることはありません。職場や親族に連絡が行くこともありません。ただし、子どもの安全に関わると判断される場合など、関係機関の間で情報が共有される仕組みはあります。これは子どもを守るためのものです。心配な点があれば、相談の冒頭で「この話がどこまで共有されるか教えてください」と確認して構いません。不安を抱えたまま話すより、先に確認したほうが落ち着いて相談できます。
まとめ|「何を聞けばいいか分からない」ときこそ使う
ひとり親家庭を支える制度は数多くありますが、いずれも申請しなければ使えません。そして、制度の名前を知らなければ、調べることもできません。だからこそ、相談窓口が用意されています。
まず頼っていただきたいのが、母子・父子自立支援員です。手当、貸付、就労、養育費、子どものこと。制度の縦割りを越えて、生活全体について相談できます。仕事のことは就業・自立支援センター、体と心のことは保健センターと産後ケア事業。目的によって窓口を使い分けてください。
相談するときは、整理できていなくて構いません。困っていることを箇条書きにしたメモを持って、「私の状況で使える制度をすべて教えてください」と伝えるだけで十分です。そして、節目ごとに何度でも相談してください。一人で抱え込む時間が、いちばんもったいない時間です。