「ストレスをためると妊娠しにくくなる」。この言葉が、どれだけ多くの人を追い詰めてきたか、あまり語られません。
気持ちを楽にしなければならない、と考えること自体が新しい負担になります。この記事では、ストレスと妊娠の関係をどう捉えるかと、実際に負担を減らすためにできることを分けて整理します。
ストレスが妊娠を妨げるという因果関係は、はっきり示されていません。「リラックスすれば妊娠する」という助言は、根拠が乏しいうえに、当事者を追い詰めます。やるべきなのは、気持ちを変えることではなく、負担そのものを減らすことです。検索を減らす、答えたくない質問を流す、休む日を決める。この方向で考えてください。
「リラックスすれば妊娠する」への疑問
まず、この言い方の問題を整理します。
因果関係は示されていない
ストレスと妊娠のしやすさに関連があるという指摘はありますが、「ストレスが原因で妊娠しない」と断定できる根拠は示されていません。関連があることと、原因であることは別です。
言われた側の負担になる
この助言は、うまくいかない理由を本人の心の持ちように帰します。結果として、妊娠しないことまで自分の責任のように感じさせます。善意で言われることが多いだけに、反論もしにくくなります。
順序が逆のこともある
妊娠を望んでいてうまくいかないから、つらくなる。この順序であることのほうが多いはずです。つらさは原因ではなく結果であるという見方も必要です。
気持ちではなく、負担を減らす
では何をすればよいのか。方向を変えます。
「前向きになる」を目標にしない
気持ちは、意志で切り替えられるものではありません。前向きになれない自分を責めることが、さらに負担を増やします。
やめられることを探す
妊活を始めると、やることが増えます。記録、サプリメント、生活の管理、情報収集。このうち、やめても影響が小さいものがあるはずです。減らすことは後退ではありません。
環境を変えるほうが確実
気持ちを変えるより、状況を変えるほうが実現しやすいことがあります。会う人を選ぶ、見る情報を減らす、予定を調整する。具体的な行動のほうが手をつけやすいものです。
情報との距離
いまの時代、最も大きな負担源のひとつが情報です。
夜の検索をやめる
不安なときほど調べたくなりますが、夜に検索すると不安が増えるうえに睡眠も削られます。「21時以降は調べない」といった線を引いてください。
体験談を根拠にしない
他人の経過は、年齢も状況も違います。読むこと自体は構いませんが、自分と比べる材料にすると苦しくなるだけです。
SNSの表示を調整する
妊娠や出産の投稿が流れてくることがつらいなら、ミュートや非表示の機能を使ってください。これは冷たいことではなく、自分を守るための操作です。
公的な情報に絞る
情報源を学会や行政のものに限定すると、量が減って質が上がります。不安をあおる情報から距離を取れます。
周囲との関係
人との関わりが負担になることも多くあります。
答えたくない質問への備え
「子どもはまだ?」という質問は、悪気なく繰り返されます。返す言葉をあらかじめ用意しておくと、その場で消耗せずに済みます。「そのうちね」で流して構いません。
祝えない自分を責めない
友人の妊娠報告を素直に喜べないことがあります。これは自然な反応であり、人格の問題ではありません。祝いの場に無理に出る必要もありません。
距離を取ってよい
会うのがつらい相手とは、しばらく距離を置いても構いません。関係を断つのではなく、いまは会わない、という選択です。
話せる相手を1人
全員に話す必要はありませんが、ひとりも話せる相手がいない状態は負担が大きくなります。友人でも、窓口でも、専門家でも構いません。
とくにつらくなりやすい場面
負担が集中する場面をあらかじめ知っておくと、備えられます。
月経が来たとき
毎月、期待と落胆が繰り返されます。この日は予定を詰めない、好きなことをする、と決めておくだけでも違います。
検査結果を聞くとき
数値を告げられた直後は、冷静に受け止められないことがあります。その場で決断せず、持ち帰ってよいと決めておいてください。
治療がうまくいかなかったとき
時間も費用もかけたぶん、落胆は大きくなります。次をすぐ決めなくて構いません。休む期間を取ることも選択肢です。
年末年始や行事の時期
親族が集まる場面では、質問を受ける機会が増えます。滞在時間を短くする、行かないという選択も含めて考えてください。
ひとりで進めている場合
選択的シングルマザーを目指す方には、特有の負担があります。
相談相手が限られる
周囲に理解者が少なく、話せる相手がいないことがあります。同じ立場の人とつながれる場や、専門の相談窓口を知っておくことが支えになります。
説明を求められる場面が多い
医療機関でも、周囲との会話でも、状況を説明する必要が出てきます。毎回すべてを説明する義務はありません。必要な範囲だけ伝えれば足ります。
判断を全部ひとりで背負う
方法の選択も費用の判断も、相談相手がいなければひとりで決めることになります。公的な相談窓口や、専門家の意見を使ってください。ひとりで決めることと、ひとりで抱えることは違います。
体に出るサイン
精神的な負担は、体の症状として現れることがあります。
眠れない・眠りすぎる
2週間以上続いて生活に支障が出ているなら、相談を検討してください。
食欲の変化
食べられない、逆に食べすぎてしまう。どちらも負担の表れであることがあります。
月経の乱れ
強い負担が続くと、月経周期が乱れることがあります。ただし、負担のせいだと決めつけず、受診して確認してください。別の原因があることもあります。
気分の落ち込みが続く
何をしても楽しくない、朝起きられない、涙が出る。こうした状態が2週間以上続くなら、専門的な相談が必要です。
相談できる場所
どこに相談すればよいかを整理します。
不妊専門相談センター
各都道府県などに設置されている公的な窓口です。医療の情報だけでなく、気持ちの面の相談も受けています。無料で利用できるところが多く、電話やメールでの相談も可能です。
かかっている医療機関
診察の場で気持ちのつらさを話しても構いません。相談員やカウンセラーが在籍している施設もあります。
心療内科・精神科
眠れない、気分が落ち込むといった状態が続く場合は、こうした医療機関の受診も選択肢です。妊娠を考えていることを伝えれば、薬の選択にも配慮してもらえます。
自助グループ・当事者の集まり
同じ経験をしている人と話すことで、孤立感がやわらぐことがあります。ただし、合わないと感じたら離れて構いません。
休むという選択
妊活を続けることだけが選択肢ではありません。
やめるのではなく、休む
数か月休むことは、失敗ではありません。疲れきった状態で続けるより、いったん離れて立て直すほうが、結果として続けられます。
休む期間を決めておく
「3か月休む」と期限を決めておくと、罪悪感を持たずに休めます。期限が来たら、続けるかどうかをそのとき改めて考えれば足ります。
年齢との兼ね合い
年齢が上がっている場合、長く休むことには影響があります。休む前に一度受診して、時間の見通しを聞いておくと判断しやすくなります。
やめる選択も含めて考える
妊活をやめるという判断も、ひとつの選択です。誰かに責められるものではありません。どの選択も、その人が自分の人生をどう生きるかという話です。
仕事との両立で起きること
働きながら妊活を進める場合、そこにも固有の負担が生まれます。
通院の時間が読めない
不妊治療では、周期に合わせた来院が必要になり、数日前まで日程が確定しないことがあります。予定を組みにくく、休みの取り方に悩むことになります。あらかじめ「急な休みが必要になるかもしれない」とだけ伝えておく方法もあります。
職場に言うか、言わないか
これに正解はありません。伝えれば配慮を得やすくなる一方、望まない詮索や噂につながることもあります。信頼できる上司ひとりにだけ伝える、という選び方もできます。伝えないという判断も、まったく問題ありません。
制度を確認しておく
勤務先によっては、不妊治療のための休暇制度や、時間単位での休暇が使える場合があります。就業規則を確認するだけなら、誰にも知られずにできます。使えるものがあるかどうかを、まず把握してください。
辞めるかどうかを急いで決めない
両立がつらくなると、仕事を辞めることを考えることがあります。ただし、収入が減ることは治療の選択肢を狭めます。働き方を変える、部署を変える、休職するといった中間の選択肢がないかを先に探してください。
お金の不安との向き合い方
費用の心配は、精神的な負担の大きな部分を占めます。
金額を把握するだけで軽くなる
漠然と「お金がかかる」と思っているほうが、不安は大きくなります。実際の金額を調べて書き出すと、対処すべき額がはっきりします。わからないままにしておくことが、不安を膨らませます。
使える制度を確認する
保険適用の範囲、高額療養費制度、自治体の助成。使える制度を知らないまま自費で払っているということが起こりえます。医療機関の窓口や自治体に確認してください。
上限を決めておく
「ここまで」という金額をあらかじめ決めておくと、そのつど悩まずに済みます。決めた額に達したら見直す、というルールがあるだけで、判断が楽になります。
ひとりで決めない
お金の話は相談しにくいものですが、公的な相談窓口では費用の話も扱っています。制度に詳しい人に一度聞くだけで、選択肢が増えることがあります。
よくある質問
その言葉は、言う側に悪意がなくても、言われた側には「自分の受け止め方が悪い」と聞こえます。気にしないようにする、という対処は現実的ではありません。気になることを気にしないでいるのは、意志でできることではないからです。できるのは、その言葉を言う人との距離を調整することと、返す言葉を用意しておくことです。「そうかもね」で流して構いません。理解を求めて説明を尽くしても、伝わらない相手には伝わりません。話が通じる相手を1人でも見つけるほうが、労力に見合います。
強い精神的な負担が月経に影響することはあります。ただし、「ストレスのせいだ」と自己判断して受診しないことが、いちばん避けたい状況です。月経の乱れには、甲状腺の異常、多嚢胞性卵巣症候群、体重の変化など、検査でわかる原因があります。原因がわかれば対応できるものも多くあります。負担が原因だったとしても、それは受診して確認したうえでの結論であるべきです。周期が乱れている状態が続いている、3か月以上月経がないという場合は、婦人科を受診してください。記録があれば持参すると説明が早く済みます。
考えないようにしようとすると、かえって意識が向きます。有効なのは、別のことに時間を使う予定を実際に入れてしまうことです。人と会う、出かける、以前していた趣味に時間を取る。頭のなかで切り替えようとするより、行動を変えるほうが確実です。また、妊活に関わる作業を減らすことも効きます。記録を減らす、検索の時間を決める、サプリメントの管理を簡単にする。手を動かす回数が減れば、意識が向く回数も減ります。それでも頭から離れず、生活に支障が出ているなら、専門的な相談を検討してください。
窓口に電話をかけるのは、たしかに勇気が要ります。多くの不妊専門相談センターでは、メールでの相談も受け付けています。まず書いて送るところから始めると、負担が小さくなります。また、話す内容が整理できていなくても構いません。「どうしたらいいかわからない」という状態のまま相談してよいものです。書き出すこと自体にも効果があります。誰にも見せない前提で、いま何がつらいのかを紙に書いてみてください。頭のなかで巡っているものが外に出ると、それだけで少し軽くなることがあります。
まとめ|気持ちではなく、負担を減らす
「リラックスすれば妊娠する」という助言に、確かな根拠はありません。それどころか、うまくいかない理由を本人の心の持ちように帰することで、負担を増やしています。前向きになることを目標にしないでください。
代わりにできるのは、負担そのものを減らすことです。夜の検索をやめる、SNSの表示を調整する、答えたくない質問を流す、月経が来た日は予定を詰めない。気持ちを変えるより、状況を変えるほうが実現できます。
そして、休む選択も、やめる選択もあります。眠れない、気分の落ち込みが2週間以上続くという場合は、相談してください。不妊専門相談センターは、医療の情報だけでなく気持ちの相談も受けています。ひとりで抱え続ける必要はありません。