子どもを迎える方法は、精子提供だけではありません。特別養子縁組や里親という制度もあります。ただし、これらは「同じ目的を果たす別の手段」ではありません。制度の目的も、要件も、生じる関係もまったく違います。

とくに、当サイトを読まれている方に関わる重要な事実がひとつあります。特別養子縁組は、配偶者がいなければ利用できません。一方、里親には単身でもなれます。この違いを知らないまま調べ進めると、時間を無駄にすることになります。

💡 先に結論だけ

特別養子縁組の養親になれるのは配偶者のいる方(夫婦)に限られ、夫婦が共同で縁組をすることになります。独身の方は対象になりません。年齢は原則25歳以上(夫婦の一方が25歳以上なら、もう一方は20歳以上でよい)とされています。これに対して里親は単身でもなることができます。ただし、子どもを養育しながら生計を維持する手段があることが求められます。

3つの選択肢を条件で比べる3つの選択肢を条件で比べる を表形式で比較した図3つの選択肢を条件で比べる単身での利用法律上の親子関係遺伝的なつながり精子提供可能出産した本人が母あり(母側)特別養子縁組できない(配偶者が必要)実親との関係が終了するなし普通養子縁組可能な場合がある実親との関係が残るなし里親可能親子関係は生じないなし

まず3つの制度を区別する

「養子」という言葉でひとくくりにされがちですが、日本には性格の違う3つの仕組みがあります。

特別養子縁組

子どもと実の親との法律上の親子関係を終了させ、養親との間に実子と同じ親子関係を作る制度です。戸籍上も実子に近い形で記載されます。子どもの福祉を目的とした制度であり、家庭裁判所の審判によって成立します。

普通養子縁組

実の親との親子関係を残したまま、養親との間にも親子関係を作る制度です。相続や扶養の関係が両方に生じます。成人どうしの縁組にも使われるなど、用途は幅広くなっています。

里親

さまざまな事情で家庭で暮らせない子どもを、一定期間家庭に迎えて養育する制度です。法律上の親子関係は生じません。子どもの養育を担う立場であり、自治体から養育にかかる費用が支給されます。

📌 目的が違うことを押さえる

精子提供は「子どもを持ちたい人の希望」を出発点とする方法です。これに対して特別養子縁組と里親は、「家庭で暮らせない子どもに家庭を用意する」ことを出発点とする制度です。この違いは、審査の観点にも表れます。制度を利用する側が選ばれる立場になるということです。

特別養子縁組の要件をくわしく

もっとも要件が明確なので、詳しく見ておきます。

養親になれる人

配偶者のある方でなければならず、夫婦が共同で縁組をすることになります。独身の方は特別養子縁組の養親になれません。年齢は原則として25歳以上とされていますが、夫婦の一方が25歳以上であれば、もう一方は20歳以上であれば認められます。

養子になる子どもの年齢

かつては原則6歳未満とされていましたが、2020年4月に施行された民法の改正により、原則15歳未満に引き上げられました。例外にあたる事情がある場合には、審判が確定するときに18歳未満であればよいとされています。

また、この改正では、子どもが15歳に達している場合には本人の同意が必要とされました。年齢が引き上げられたことで、より多くの子どもが法的な親子関係を得られるようになった一方、子ども本人の意思を確認する仕組みも整えられたということです。

手続きが二段階になった

同じ改正で、成立までの手続きが二段階に分けられました。実の親との関係を終了させるかどうかを判断する段階と、養親との縁組を成立させる段階です。これにより、養親になろうとする方の負担が軽減されました。

里親|単身でもなれる制度

特別養子縁組が配偶者を要件としているのに対し、里親は単身でもなることができます。

求められる条件

25歳以上であれば、未婚の方でも、共働きの夫婦でも里親になることができます。ただし条件があります。子どもを養育しながら生計を維持する手段を持っていること、そして同居している家族や協力してくれる人がいることが望ましいとされています。

単身で働きながら子どもを養育するには、時間の面でも体力の面でも支えが必要になります。この点が確認されるのは、子どもの生活を安定させるためです。

里親にはいくつかの類型がある

一定期間子どもを養育する養育里親、専門的な支援を要する子どもを受け入れる類型、親族が担う類型、そして養子縁組を前提とする類型などがあります。養子縁組を前提とする類型を選ぶ場合、その先の特別養子縁組には配偶者が必要になるという点は変わりません。

法律上の親子関係は生じない

里親は、子どもを養育する立場であって、法律上の親にはなりません。姓も変わらず、相続の関係も生じません。この点は、精子提供や養子縁組と決定的に違うところです。

養子縁組・里親を検討するときの流れ養子縁組・里親を検討するときの流れ の各段階を左から順に示した図養子縁組・里親を検討するときの流れ1制度を知る特別養子縁組・普通養子縁組・里親の違いを理解する2要件を確認年齢・婚姻・生計の条件に当てはまるか3窓口に相談児童相談所やあっせん機関に相談する4研修・審査研修を受け、家庭の状況を確認される

精子提供と比べて何が違うのか

ここまでの内容を、精子提供と並べて整理します。

観点 精子提供 特別養子縁組 里親
単身での利用 可能 できない 可能
審査を受けるか 原則なし 家庭裁判所の審判 研修と審査がある
法律上の親子関係 生じる 生じる 生じない
妊娠・出産 本人が経験する 経験しない 経験しない
費用の性格 自己負担が中心 手続き費用など 養育費用が支給される

「選ぶ側」か「選ばれる側」かの違い

もうひとつ、心構えとして大きな違いがあります。精子提供では、方法も相手も自分で選びます。これに対して養子縁組や里親では、自分が審査され、選ばれる側になります。研修を受け、家庭の状況を確認され、子どもとの相性も検討されます。

これは制度が意地悪だからではありません。子どもの側の福祉を出発点にした制度だからです。この違いを理解しておくと、手続きの意味も受け止めやすくなります。

どう検討すればよいか

ご自身の状況によって、検討できる選択肢が決まります。

単身の方の場合

特別養子縁組は対象外です。現実的な選択肢は、精子提供と里親になります。この2つは性格がまったく違うため、「どちらでもよい」という比較にはなりません。自分が妊娠・出産を経験したいのか、家庭を必要としている子どもを迎えたいのか。この問いに向き合うところから始めてください。

パートナーがいる方の場合

法律婚であれば、精子提供、特別養子縁組、里親のすべてが検討の対象になります。ただし、精子提供については医療機関ごとの受け入れ条件があり、特別養子縁組については年齢などの要件があります。それぞれの入り口の条件を確認してください。

同性のパートナーがいる方の場合

特別養子縁組は法律上の夫婦であることが前提となるため、現行制度では利用できません。里親については、自治体によって取り扱いが異なります。精子提供が現実的な選択肢になることが多いのが現状です。

検討する前に確認したい6項目検討する前に確認したい6項目 のチェック項目一覧検討する前に確認したい6項目配偶者がいるかどうか(特別養子縁組の分かれ目)25歳以上という年齢の要件を満たすか子どもを養育しながら生計を維持できるか同居家族や協力してくれる人がいるか住まいに子どもを迎える空間があるか子どもの背景を受け止める準備があるか

検討する前に知っておきたい現実

制度の説明だけでは見えてこない、実務上の現実がいくつかあります。検討を始める前に知っておくと、途中で戸惑わずに済みます。

希望どおりの年齢の子どもを迎えられるとは限らない

特別養子縁組や里親を考える方の多くは、乳児を想定しています。しかし実際に家庭を必要としている子どもの年齢層は幅広く、思春期に近い年齢の子どももいます。制度の目的が子どもの福祉にある以上、迎える側の希望が最優先されるわけではありません。この点は、精子提供との大きな違いです。

子どもは背景を抱えてやってくる

家庭で暮らせない事情は、子どもによって違います。虐待や養育の困難を経験している場合もあり、迎えたあとに専門的な支援が必要になることもあります。研修が用意されているのは、この現実に備えるためです。「かわいそうだから救いたい」という動機だけでは続かないと、経験者からはよく語られます。

時間がかかる

研修を受け、登録され、実際に子どもを迎えるまでには相応の期間がかかります。登録したからといって、すぐに委託されるわけでもありません。精子提供のように、自分のタイミングで進められる性質のものではないという点は、はじめに理解しておいてください。

それでも、選択肢として知っておく価値がある

ここまで厳しい面を書きましたが、選択肢として知っておくことには意味があります。精子提供を検討している方のなかには、妊娠がうまくいかない時期に「ほかに道はないのか」と考える方が少なくありません。そのときに、養子縁組と里親という制度の存在と要件を知っているかどうかで、選択の幅が変わります。いま使わなくても、知っておく。それだけでも十分な意味があります。

相談する窓口

養子縁組や里親について具体的に知りたい場合の相談先を挙げておきます。

  • 児童相談所 ── 里親制度の相談・研修・登録の窓口
  • 自治体の担当課 ── 地域の制度や説明会の情報
  • 養子縁組のあっせん機関 ── 許可を受けた民間の機関
  • 家庭裁判所 ── 特別養子縁組の申し立て手続き
  • 弁護士 ── 個別の事情に応じた法的な確認

説明会や研修は、参加したからといって申し込む義務が生じるものではありません。情報を得る段階として参加してみることは十分に意味があります。

よくある質問

Q 独身でも普通養子縁組ならできますか?

普通養子縁組については、独身の方が養親になることも制度上は可能です。ただし、未成年の子を養子にする場合には家庭裁判所の許可が必要になるなど、条件があります。また、実の親との親子関係が残るため、相続や扶養の関係が両方に生じるという特徴もあります。「子どもを迎えて育てる」という目的で普通養子縁組を検討される場合は、その仕組みが自分の望む関係と合っているかを、弁護士や専門の窓口に確認することをおすすめします。制度の名前だけで判断せず、生じる関係の中身を確認してください。

Q 里親になったあと、その子と特別養子縁組をすることはできますか?

養子縁組を前提とした里親という類型があり、そこから特別養子縁組に進む道筋は制度として想定されています。ただし、特別養子縁組の養親になるには配偶者が必要という要件は変わりません。単身で里親になった場合、その先の特別養子縁組には進めないことになります。この点は、里親を検討する段階で確認しておくべき重要な条件です。また、里親としての養育がそのまま養子縁組につながるとは限らず、実の親のもとへ戻る可能性も含めて子どもの福祉の観点から判断されます。

Q 精子提供と養子縁組で迷っています。どう考えればよいですか?

この2つは、目的の向きが違うと考えると整理しやすくなります。精子提供は「自分が子どもを産み育てたい」という希望から出発します。養子縁組や里親は「家庭を必要としている子どもがいる」という現実から出発します。どちらが尊いという話ではなく、自分がどちらの動機に近いかという問題です。妊娠・出産を経験したいという気持ちが強いのか、それとも育てることが中心なのか。この問いに答えを出すと、進む方向が見えてきます。また、単身の方の場合は特別養子縁組が選べないという制度上の制約もあるため、その現実も含めて検討してください。

Q 収入がそれほど多くありませんが、里親になれますか?

高い収入が要件とされているわけではありません。求められるのは、子どもを養育しながら生計を維持する手段があることです。里親には自治体から養育にかかる費用が支給される仕組みがあり、生活費のすべてを自分でまかなう前提にはなっていません。ただし、支給される費用は養育のためのものであり、自分の生活は自分で成り立たせている必要があります。具体的な基準は自治体によって運用が異なるため、まずは地域の児童相談所に相談してみてください。説明会に参加するだけであれば、収入の要件を問われることはありません。

Q 精子提供を試している最中に、並行して里親の登録を進めてもよいですか?

制度上、両方の情報を集めることに問題はありません。ただし実際に進める段階では、それぞれに相応の時間と気持ちの労力がかかります。妊娠を目指している時期は排卵の把握や体調の管理に集中する必要があり、里親の研修や面談と並行させると、どちらも中途半端になりやすいという面があります。おすすめは、情報収集と説明会への参加までは並行して行い、実際に手続きを進めるのはどちらかに絞るという進め方です。また、里親の面談では家庭の状況を伝えることになるため、精子提供を検討していることをどう説明するかも考えておいてください。

まとめ|制度の入り口を先に確認する

子どもを迎える方法には、精子提供のほかに特別養子縁組、普通養子縁組、里親という選択肢があります。それぞれ目的も要件も生じる関係も違い、単純に比較できるものではありません。

実務的にもっとも重要な区別は、特別養子縁組は配偶者がいなければ利用できず、里親は単身でも可能という点です。単身で子どもを迎えることを考えている方にとって、現実的な選択肢は精子提供か里親になります。

そして、養子縁組や里親を検討する場合は、自分が審査され選ばれる立場になるという性格の違いも押さえておいてください。制度の出発点が「子どもの福祉」にあるためです。まずは児童相談所や自治体の説明会で情報を得るところから始めるとよいと思います。入り口の条件を先に確認する。これが、どの方法を検討するときにも共通する第一歩です。