「何を食べれば妊娠しやすくなるのか」。この問いに、はっきりした答えはありません。特定の食品を食べれば妊娠する、というものではないからです。
それでも食事を整えることに意味があるのは、体の状態を安定させることが、周期の安定や体調の維持につながるからです。この記事では、公的な食事の基準をもとに、現実的に続けられる整え方を示します。
やることは単純です。主食・主菜・副菜をそろえる。極端な制限をしない。朝食を抜かない。この3つが基本で、特別な食材は必要ありません。そのうえで、妊娠を計画している段階ではサプリメントなどから葉酸を1日400マイクログラム摂ることが望まれるとされています。
まず押さえるのは「そろえる」こと
栄養素の名前を覚える前に、食事の形を整えるほうが効果的です。
主食・主菜・副菜という考え方
ごはんやパンなどの主食、肉や魚や大豆製品などの主菜、野菜を中心とした副菜。この3つがそろっていれば、必要な栄養素は自然とある程度そろいます。栄養素を個別に数えるより、この形を意識するほうが実践的です。
抜けやすいのは副菜
忙しいと、主食だけ、あるいは主食と主菜だけになりがちです。野菜が抜けると、ビタミンやミネラル、食物繊維が不足します。まず副菜を1品足すことから始めてください。
朝食を抜かない
1日2食にすると、必要な量を確保しにくくなります。また、生活のリズムにも影響します。時間がないなら、簡単なもので構いません。
意識したい栄養素
そのうえで、妊活の段階でとくに意識したい栄養素があります。
葉酸
妊娠を計画している女性については、通常の食品以外の食品から1日400マイクログラムを摂ることが望まれるとされています。食事からは、ほうれん草やブロッコリーなどの緑の野菜、納豆、レバーなどから摂れます。
鉄
月経のある女性は不足しやすい栄養素です。不足すると、疲れやすさやだるさにつながります。赤身の肉や魚、大豆製品などから摂れます。ただし摂りすぎにも注意が必要な成分ですので、サプリメントで大量に補うのは避けてください。
カルシウム
日本人に不足しがちな栄養素として、繰り返し指摘されています。乳製品、小魚、大豆製品などが主な供給源です。
たんぱく質
体をつくる基本です。極端な食事制限をしていると不足しがちです。毎食、主菜をそろえることを意識してください。
「妊娠しやすくなる食べ物」はあるのか
ここははっきりさせておきます。
特定の食品に効果を期待しない
「これを食べると妊娠しやすくなる」という食品は、公的な情報として示されていません。特定の食材を大量に摂ることに意味はなく、むしろ栄養が偏る原因になります。
効果をうたう情報の見分け方
根拠が示されているか、その根拠が公的な機関や学会のものかを確認してください。個人の体験談は「その人にそうだった」という話であり、一般化できるものではありません。
高価な食品や健康食品に頼らない
妊活は長期にわたることがあります。続けられない出費は、続きません。日常の食事を整えるほうが、費用の面でも確実です。
妊活と食事の領域は、根拠のはっきりしない情報が特に多く流通しています。判断に迷ったら、厚生労働省の食事に関する情報や、日本人の食事摂取基準を確認してください。公的な基準に書かれていないことは、根拠が確立していないと考えるのが安全です。
極端な制限をしない
食事を「整える」ことと「制限する」ことは違います。
急な減量は月経に影響する
短期間での大幅な体重減少は、月経周期に影響することがあります。妊活を意識して体重を落とそうとした結果、周期が乱れてしまうということが実際に起こります。
特定の食品群を丸ごと抜かない
炭水化物を抜く、脂質を極端に減らすといった方法は、必要な栄養素まで不足させます。妊活の期間中は、こうした方法は避けてください。
体重を落とす必要がある場合も、ゆるやかに
肥満が周期に影響している場合、体重を落とすこと自体には意味があります。ただし、急がずゆるやかに進めることが原則です。
忙しくても続けられる工夫
理想の食事を毎日作るのは現実的ではありません。続けるための現実的な方法を挙げます。
冷凍・カット野菜を使う
副菜を足すハードルを下げるのが、いちばん効きます。冷凍のほうれん草やブロッコリー、カット野菜を常備しておけば、加熱するだけで1品になります。
缶詰や大豆製品を常備する
魚の缶詰、納豆、豆腐。調理の手間がほとんどかからず、主菜になります。
まとめて作って冷凍する
時間のある日に作り置きして冷凍しておくと、疲れている日に使えます。産後を見据えても、この習慣は役に立ちます。
外食や中食でも整えられる
自炊できない日があって当然です。外食や総菜を選ぶときも、主食・主菜・副菜がそろっているかという視点で選べば、大きく崩れません。定食を選ぶ、サラダを追加する。それだけで違います。
3日ぶん書き出してみる
いまの食事を変える前に、まず現状を把握してください。
記録は3日でよい
何を食べたかを3日ぶん書き出すだけで、傾向が見えます。完璧な記録である必要はなく、思い出せる範囲で構いません。
見るのは「抜けているもの」
カロリーや栄養素の計算は不要です。主菜が抜けている食事はないか、副菜がまったくない日はないか。この2点だけを見てください。
ひとつだけ足す
一度に全部変えようとすると続きません。抜けているもののうち、いちばん足しやすいものをひとつだけ決めて、2週間続けてみてください。続いたら次を足します。
数字を追いすぎない
アプリなどで栄養素を細かく計算しはじめると、達成できない日に落ち込む材料になります。妊活は長く続くことがあり、そのあいだずっと数字に追われるのは現実的ではありません。形がそろっているかどうかだけを見るくらいで十分です。
受診のときにも役立つ
婦人科で生活について尋ねられたとき、記録があれば具体的に答えられます。とくに、周期が乱れている場合や体重に変化があった場合は、食事の状況が判断の材料になります。
パートナーや同居者と一緒に考える
食事は、ひとりで完結しないことが多いものです。
男性側の食事も無関係ではない
妊活というと女性の食事ばかりが話題になりますが、精子の状態にも生活習慣は関わります。バランスのとれた食事、適正な体重、喫煙や過度の飲酒を避けること。男性側にも同じことが当てはまります。片方だけが気をつける状況は、続けるうえでも負担が偏ります。
同じ食卓なら、同じ内容でよい
妊活中だからといって、自分だけ特別な食事を用意する必要はありません。主食・主菜・副菜をそろえた食事は、誰にとっても望ましい形です。家族全員の食事を少し整える、という考え方のほうが現実的で長続きします。
ひとりで妊活する場合
選択的シングルマザーを目指す方など、ひとりで食事を管理する場合は、作る量の調整が難しくなりがちです。少量で作りにくいものは、まとめて作って冷凍する。あるいは総菜を活用する。「ひとりだからきちんと作れない」と考えるより、そろえる形だけ守ると割り切ったほうが続きます。
サプリメントとの付き合い方
食事だけで十分か、サプリメントを使うべきか。判断の目安を整理します。
基本は食事から、葉酸だけは例外
栄養素は食事から摂るのが基本です。ただし葉酸については、妊娠を計画している段階で通常の食品以外から1日400マイクログラムを摂ることが望まれるとされており、ここだけは意図的な上乗せが想定されています。
「多く摂るほどよい」ではない
葉酸には1日あたりの上限量が設定されています。年齢によって900マイクログラムまたは1,000マイクログラムです。鉄やビタミンAなども、摂りすぎが問題になる栄養素です。複数のサプリメントを併用すると、知らないうちに上限を超えることがあります。成分表示を確認し、重複がないかを見てください。
受診時には必ず伝える
婦人科を受診するときは、飲んでいるサプリメントを伝えてください。薬との関係が問題になることもあります。パッケージを持参するか、写真を撮っておくと確実です。
食品の安全面で気をつけること
妊娠が成立した後を見据えると、いまのうちから知っておきたいことがあります。
妊娠後に制限される食品がある
生ものの一部や、一部の魚については、妊娠中に量や頻度の目安が示されています。妊活中から完全に断つ必要はありませんが、妊娠がわかった時点で見直す項目があることは知っておくと、慌てずにすみます。
加熱と保存の基本
食中毒を避けるための基本は、妊活中も同じです。加熱が必要なものは十分に加熱する、作り置きは早めに冷やして保存する、期限を守る。体調を崩すこと自体が、妊活を続けるうえでの中断要因になります。
過剰に神経質にならない
一方で、あれもこれも避けようとすると、食べられるものがなくなってしまいます。公的な情報として注意が示されているものだけを押さえ、それ以外は通常どおりで構いません。不安をあおる情報に振り回されないことも、妊活を続けるうえで大切です。
よくある質問
冷たい飲食物が妊娠のしやすさに直接影響するという明確な根拠は、公的な情報として示されていません。ただし、極端に冷たいものばかりを大量に摂ると、胃腸の調子を崩すことはあります。体調が安定していることは、妊活を続けるうえで大切です。「冷たいものは絶対にだめ」と自分を追い込む必要はありませんが、体が冷えて不快なら温かいものを選ぶという程度の判断で十分です。神経質になって食事が楽しめなくなるほうが、長い目で見ると負担になります。
調理の腕は関係ありません。整えるとは、料理を作ることではなく、主食・主菜・副菜がそろった状態にすることです。総菜を組み合わせても、冷凍食品を使っても、外食でも構いません。定食を選ぶ、サラダやおひたしを1品足す、納豆や豆腐をそのまま食べる。これだけで形は整います。むしろ、無理に自炊しようとして疲れ果て、結局食事が乱れるほうが問題です。続けられる方法を選んでください。
必要ありません。日常の食事を整えることのほうが、確実で費用もかかりません。妊活は長期にわたることがあり、続けられない出費は結局続きません。「これを摂れば妊娠しやすくなる」という説明には、必ず根拠を確認してください。公的な情報として示されているのは、葉酸に関する内容や、バランスのとれた食事の重要性といった基本的なことです。高額な商品を勧められた場合は、いったん持ち帰って調べる時間を取ってください。契約や勧誘をめぐって困ったときは、消費生活センターに相談できます。
食事は、妊娠しやすさを左右する要素のひとつではありますが、決定的なものではありません。年齢、排卵が起きているかどうか、卵管の状態、精子の状態。これらのほうが直接的に影響します。食事を完璧にしても、その他の要因があれば妊娠には至りません。食事を整えることに時間と気力を注ぎすぎるより、一度受診して現状を確認するほうが有効な場合があります。自分を責める材料にしないでください。食事は「できる範囲で整える」もので、それ以上を求める必要はありません。
まとめ|特別なことより、形を整える
妊活のための特別な食事はありません。やることは、主食・主菜・副菜をそろえる、極端な制限をしない、朝食を抜かない。この3つです。
そのうえで、妊娠を計画している段階では葉酸をサプリメントなどから1日400マイクログラム摂ることが望まれるとされています。鉄、カルシウム、たんぱく質も意識したい栄養素ですが、いずれもまず食事からが原則です。
始め方は簡単です。3日ぶん食事を書き出し、抜けているものをひとつだけ足す。2週間続いたら次を足す。この進め方であれば、無理なく変えられます。そして、食事を完璧にすることに気力を使いすぎないでください。食事は妊活の一要素であって、すべてではありません。